2019/10/13(日)に開催されたシカゴマラソンで、ケニアのブリジッド・コスゲイ選手が2:14’04″の世界新記録を叩き出しました。以前の記録は2003年にイギリスのポーラ・ラドクリフ選手が達成した2:15’25″で、これ自体も16年破られるどころか2時間17分切りさえ誰もできなかった驚異的な記録でしたが、その記録も1分以上更新されました。
この記事ではこの記録について分析し、今後の女子長距離界を予想していきます。
世界記録を狙う場合の男女差
まず前提として、女子の世界記録は男女混合レースでも認められます。記録としては男女混合と女子のみの記録は区別されますが、世界記録はどちらでも良いということです。そしてラドクリフ選手の前世界記録も、今回のコスゲイ選手による新記録も、混合レースで達成されていることからわかるように、混合レースの方が圧倒的に有利です。
理由はもちろんペースメーカーの存在です。男子の場合は世界記録を狙うようなレースのペースメーカーは30km持たせるだけでもかなり困難ですが、女子の場合は男子選手がペースメーカーにつくので、基本的には外れる心配がなく最後までサポートされます。
キプチョゲ選手がサブ2を達成したINEOS 1:59チャレンジを見てもわかるように、ペースメーカーはペースを作るという本業よりもエアシールドとしての役割のほうが重要で、ランニングエコノミー的にもかなり有利になります。そのため、男子よりもペースメーカーが充実する女子の方が世界記録を狙う環境は恵まれていると言えます。
それにも関わらず、ラドクリフ選手の記録に誰も近づくことすら出来なかったのはそれだけ突出した記録だったということです。
今回の世界記録の突出度
さて、 2:14’04” という記録ですが、まずVDOTを計算してみると75.6という値になります。このVDOTに相当する練習ペースを見てみましょう。VDOTやダニエルズの練習ペースについてはこちらの記事を参照して下さい。
うーん、化け物じみた数字ですね。Eペース上限が3’40″/kmですか。VDOT75.6に相当する他の距離のタイムも求めてみましょう。
VDOT的には他の長距離種目の全てのタイムを上回っていますね。ちなみに全世界記録のラドクリフ選手の記録はVDOT 74.7でした。いかにこの記録が突出しているかわかるでしょう。
今後の女子長距離界の展望
さて、今回の世界記録の要因ですが、その重要な要素としてまずヴェイパーフライ Next%が挙げられるでしょう。WMM全制覇や、WR更新、各国のNRの更新もほぼ全てがヴェイパーフライにようるものですので、もはや現在の長距離界はこのシューズを履きこなせないと同じ土俵で勝負することすらできない状態と言っても過言ではないと思います。スポンサーの関係でヴェイパーを履けない選手はそれだけで大きく遅れを取っている、とすら言えます。
コスゲイ選手は女子選手によるマラソンサブ10、2時間10分切りも可能と言っているようですし、α-flyがさらにランニングエコノミーを改善するようなシューズなら今後ますます記録更新が加速するかもしれませんね。
他の距離に関して言うと、今回の記録をハーフ、10000m、5000mの等価タイムに換算した記録の達成は遠くないと思います。というのも、先程のテーブルで挙げた現世界記録はハーフ以外はヴェイパーが出てくる以前の記録だからです。トラック種目ではスパイクを使う選手が多いですが、Nikeはヴェイパーのテクノロジを活かしたカーボンプレートとズームXフォームのスパイクを開発しており、先日の世界選手権でもそのスパイクが圧倒的な成績を収めています。なので、トラック種目の更新も近いでしょう。
大きな節目と思われるのは5000mの13分台、10000mの28分台ですね。どちらも日本の男子大学生のエースクラスに匹敵するタイムです。
日本選手については、マラソンの日本記録もしばらく破られていない状況ですが、MGCを見てもヴェイパーフライを履いたのは鈴木亜由子選手のみで日本の実業団はヴェイパーフライの導入に積極的じゃないようなので、この流れが変わらないと世界の潮流に乗り遅れてしまいますね。
5000mは福士選手以外は14分台も出せていない状況ですし、10000mは30分切りもまだ遠い状況です。ですがテクノロジの進歩とともにこれらのハードルは下がってきているはずなので、近いうちに突破する選手が現れてほしいと思います。
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