11月に入り今年もあと2ヶ月となりました。そうこうしているうちに今年の本命レースが近づいてきたという方も多いのではないでしょうか。
レース前になるといつも迷うのがテーパリング。レース本番にピークを持ってこれるように練習量を落としていく手法ですね。私自身レースに出るようになって8年くらい、マラソンも現時点で16本走っていますが未だにやり方は固定化できていません。
テーパリングについてセオリーとしてよく言われているのが、「トレーニング強度は落とさず、量を落としていく」ですね。ダニエルズ先生もこれを推奨していますし、多くのランニング関連書籍でも書かれていることだと思います。
ただ、テーパリングの期間や、低下させる量、頻度、強度などについては書かれていることはまちまちです。また、疲労の回復速度は遺伝子レベルや年齢でも大きく変わってくることが想像できますし、万人に向けて指標化するのは難しいと思います。
そのため自分に合った方法を探すしかないわけですが、自分の体も毎年のように変わっていきます。今までの方法では何ととなくうまくいっていたように思えても、他にベストな方法があるかもしれないですし、加齢とともに通用しなくなることもあるかもしれません。そのため常に自分にあった方法の模索が必要だと思います。
というわけでテーパリングに関連するサーベイ論文を見つけたので紹介です。様々な手法を比較しているので参考になるやり方が見つかれば幸いです。
調査した文献の選定方法
Pubmed、SPORTDiscus、Medlineというスポーツサイエンス系の3つの文献データベースから関連する1160文献をピックアップし、最終的にVO2maxが55以上の訓練されたランナーを対象とした9文献に絞ったようです。
これらの文献を合計すると、被験者は合計125人(男性100人、女性25人)でVO2maxは55.3~69.7とのこと。
テーパリングプログラムの特徴とパフォーマンス変化
各文献で設定しているテーパリング期間は6日~28日の範囲でした。ただし、マラソンに限った話ではなく中距離から5km、10kmの長距離種目を対象とした文献が多いのは注意する必要があります。
トレーニング量の低下幅も17.6%~85%まで様々。
トレーニング頻度に関しては4文献では頻度も落としており、他の5文献では頻度を維持するプログラムでした。
各文献のテーパリングプログラムとそのパフォーマンス変化の関係をまとめたのが↓のテーブルです。
文献 | 期間 (日) | 量の低下幅 (%) | 頻度の低下幅 (%) | VO2maxの変化 (%) | パフォーマンス変化 (%) |
[1] | 6-14 | 30-47 | 57.1-77.7 | – | – |
[2] | 21 | 33 | 14.28 | +1.51 | +20 |
[3] | 21 | 50 | 0 | -0.86 | +3 |
[4] | 6 | 20-33 | 0 | +5.3 | +0.31-0.39 |
[5] | 6 | 50-75 | 0 | – | +0.39-0.95 |
[6] | 7 | 85 | 0 | +3.07 | +2.32 |
[7] | 28 | 66 | 50 | -1.1 | -1.2 |
[8] | 21 | 70 | 0 | -1.45 | +0.45 |
[9] | 18 | 49 | 20 | – | +2.7 |
[1] Spilsbury, K.L., Fudge, B.W., Ingham, S.A., Faulkner, S.H., Nimmo, M.A., 2014, Tapering strategies in elite British endurance runners, European Journal of Sport Science, 15(5), 1-7
[2] Hug, B., Heyer, L., Naef, N., Buchheit, M., Wehrlin, J.P., Millet, G.P., 2014, Tapering for marathon and cardiac autonomic function, International Journal of Sports Medicine, 35(8), 676-683.
[3] Luden, N, et al., 2010, Myocellular basis for tapering in competitive distance runners, Journal of Applied Physiology, 108(6), 1501-1509.
[4] Mujika, I., Goya, A., Ruiz, E., Grijalba, A., Santisteban, J., Padilla, S., 2002, Physiological and performance responses to a 6-day taper in middle-distance runners: influence of training frequency, International Journal of Sports Medicine, 23(5), 367-373.
[5] Mujika, I., and Padilla, S., 2000, Detraining loss of training-induced physiological and performance adaptations. Part I. Short-term insufficient training stimulus, Sports Medicine, 30(2), 79–87.
[6] Houmard, J.A., Johns, R.A., 1994, Effects of taper on swim performance, Practical implications. Sports Medicine, 17(4), 224–232.
[7] McConell, G.K., Costill, D.L., Widrick, J.J., Hickey, M.S., Tanaka, H., Gastin, P.B., 1993, Reduced training volume and intensity maintain aerobic capacity but not performance in distance runners, International Journal of Sports Medicine, 14(1), 33-37.
[8] Houmard, J.A., Costill, D.L., Mitchell, J.B., Park, S.H., Hickner, R.C., Roemmich, J.N., 1990, Reduced training maintains performance in distance runners, International Journal of Sports Medicine, 11(1), 46-52.
[9] Skovgaard, C., Almquist, N.W., Kvorning, T., Christensen P.M, Bangsbo, J., Effect of tapering after a period of high-volume sprint interval training on running performance ,and muscular adaptations in moderately trained runners, Journal of Applied Physiology
考察
文献[5], [7], [8]の3つではパフォーマンスがほとんど変わらず、むしろ[7]に至っては低下していますね。これらのプログラムの共通点としては、量の低下幅が50%以上と減らしすぎているのが一因と思われます。文献[7]は頻度も半分に減らし、かつ期間も28日と長いですから、その間の強度は維持していても走力は落ちたのだと思われます。
他の6文献では全てパフォーマンスが向上したという結果でした。文献[2]の+20%というのはトレッドミル上でのVO2peak(95%VO2max)での走行時間で比較しているので単純にタイムでの比較ではないのですが、量と頻度どちらも落としてもパフォーマンス向上の可能性はあると言えそうです。
なおVO2maxが落ちてパフォーマンスが向上している例が文献[3]で報告されています。そもそもテーパリングをしてVO2maxが向上する理由もよくわからないのですが、疲労が抜けてその人本来のVO2maxまで追い込めるようになったから測定値が高く出た、という理屈なのでしょうか。そのあたりはこのサーベイ論文では言及されていませんでした。もしかしたら元論文で言及されているかもしれません。
マラソンに向けたテーパリングについて記載しているのは文献[1]と[2]です。14日~21日前からがテーパリング期間で、低下幅は30~50%とのこと。やはりよく見るこの当たりの数字が目安になりそうです。
トレーニング強度を落としたらどうなるか?
また別の文献ではテーパリング中の強度-量の組み合わせとして、高強度-低量、低強度-適量、レストの3通りのパターンを比較したところ、高強度-低量のみパフォーマンスが向上したようです。ここからも一般的に言われている「トレーニング強度は落とさず量を落とす」にはある程度の裏付けがあると言えそうですね。
偉大な先人達の良記事紹介
SC Runnerさんの高クオリティな記事。ボリューム満点だがとりあえずこれだけ読んでおけば問題ないです。

ひろぽんさんの論文解説記事。気象予報士さんのようで統計的な側面をしっかり書かれています。

全力中年さんの記事で↑の記事と同じ論文の解説だが、疲労とパフォーマンスの時系列モデルの解説が素晴らしいです。
まとめ
- テーパリング時にトレーニングの量、頻度をどのくらい減らすかは難しい問題だけど、量を50%以上減らすとパフォーマンスが低下したという事例もあるよ
- テーパリングの王道「強度は維持して量を減らせ」は科学的な裏付けがありそうだよ
- マラソンに向けたテーパリングの期間は14-21日前から30%~50%程度量を落とすのが主流みたいだよ
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