ヴェイパーフライ規制の流れについての私見

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厚底シューズ
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ご存知の通り、Nike ヴェイパーフライについて国際陸連(IAAF)が調査を行っているようです。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191019-00000085-dal-spo

BBCによればNikeを使用していないアスリートグループがIAAFに対して不満を訴えたのが発端になっているとのことです。現行のIAAFのルールでは競技用靴の規則は以下のようになっており、このうちの「不公平」と、「陸上競技の精神」がこの問題におけるキーワードだと思っています。

競技用靴:
競技者は、裸足でも、また片足あるいは両足に靴を履いて競技 をしてもよい。競技の時靴を履く目的は、足の保護安定とグランドをしっかり踏みつけるためである。

しかしながら、そのような靴は、使用者に不公平となる助力や利益を与えるようなものであってはならない。 使用される靴はどのようなものであっても、陸上競技の普遍的精神に合致し合理的かつ無理なく入手できるものでなくてはならない。

〔注意〕
ⅰ 競技規則の一般原則に沿った範囲内であれば、個々の 競技者に合わせて靴を改良することが認められる。
競技会で使用される靴が競技規則や陸上競技の精神に反しているとの証拠がIAAFに提出されたら、その靴は検査対象となり、違反が認められれば競技会での使用が禁止される。

日本陸上競技連盟競技規則/第 2 部競技会一般規則 143.2
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ヴェイパーフライは不公平を生むか?

エリートランナーにおいてはスポンサー契約の縛りで他社シューズを履けないことが不公平に当たると思います。

ヴェイパーフライ以前ならシューズの差はそこまで大きくなく、シューズが合う合わないで選べていたと思いますが、現状はヴェイパーフライだけ明らかに飛び抜けてパフォーマンスが良いので、他の人がヴェイパーフライを使う中で自分だけ使えないのは同じ土俵で勝負ができないということを意味します。

ヴェイパーフライが合う合わないも人によって当然差がありますが、もはや合わないから履かないのではなく、このシューズに合うような走りができないと勝負できないのが現状です。

MGCを制した中村匠吾選手も以前からNikeのシューズを使っていましたが昨年のベルリンマラソン時点ではヴェイパーフライは使っていませんでした。おそらく当初のフィーリングは良くなかったのだと思います。ただそこから1年でヴェイパーフライを履きこなして見事にMGC優勝を勝ち取りました。

非Nike契約のアスリートも生活がかかっていますし、すでにスポンサーを受けているメーカーから契約を切られるリスクを冒してまでヴェイパーフライに履き替えることは難しいでしょう。

そのため一部選手はヴェイパーフライのソールを使ってアッパーだけ契約メーカーのものに改造したシューズを使ったりしていたようですね。今の時代そんなことしてもすぐバレますので、この選手がその後どうなったのかは知りませんが・・・

WMMでもご覧の通り表彰台をほぼ独占していますね。

ヴェイパーフライは陸上競技の普遍的な精神に則っているか?

もう1つのキーワードである陸上競技の普遍的な精神。

私自身が陸上競技経験がないので陸上競技者の感覚とは違うのかもしれませんが、私は陸上競技は「走る」、「跳ぶ」、「投げる」といった人間の基本的な能力の限界を追求するスポーツだと思っています。競技ではシューズを含め何かしらの道具を使いますが、道具を使いこなす技術の差ではなくてあくまで人間の能力の差がそのまま競技力の差となるべき、ということだと解釈しています。

現状の長距離界を見る限り、ヴェイパーの有無での競技力の逆転はもちろん、使いこなしの差でも逆転することもあり得るかなと感じています(検証論文ではランニングエコノミーの改善に1%~6%までバラツキがあった)。

その意味では陸上競技の精神に則っているかどうかは微妙な判断になると思います。

規制するとしたらどのようなルールが必要か?

IAAFのワーキンググループにより、ヴェイパーフライが不公平性を生む、もしくは陸上競技の精神に則っていないと判断された場合は何らかの規制案を考える必要があります。

以下の論説記事では、ソールの厚さによる規制案を提案しています。ちなみにこの論説は今年の9月にジャーナルにアクセプトされたものですので、冒頭のIAAFの調査が入る前の時点のものになります。

Attention Required! | Cloudflare

この論説ではヴェイパーフライの特徴を3つの要素に分け、どのようなルールを設ければよいかを論じています。

ヴェイパーフライの三要素

カーボンプレート

カーボンプレートは縦軸方向の曲げ剛性を高める役割を果たしています。高い反発力を得るには硬いほうが良いため、 スプリント用のスパイクでもカーボンは使われていますが、長距離用シューズではクッション性が無さすぎて最後まで脚が持たず従来は効果的に使えていませんでした。

このプレートの効果でランニングエコノミーが1%向上するとされています。

ミッドソール素材(ZoomXフォーム)

ZoomXフォームはPEBA(Polyamide Block Elastomer)と呼ばれる素材のようです。Zoom Streakで使われていたEVA(Ethylene Vinyl Acetate)という素材や、adidasのBOOSTフォームで使われているTPU(Thermoplastic Polyurethane)よりもエナジーリターンが高いのが特徴です。

ミッドソールの厚さ

PEBAはEVAやTPUよりも密度小さく軽い素材です。そのため、厚いソールからは信じられないほど軽量です。VFの厚さは31mmですが184gで、Zoom Streakの23mm-181gと重さでは同等です。ソールの厚さはクッショニング性能の向上に寄与しますので、カーボンプレートによる剛性とZoomXフォームのクッショニングで従来は両立が難しいとされていた反発性とクッション性の両立に成功しました。

更にソールの厚さはランナーの脚を長くする効果もあります。これはヴェイパーのパフォーマンス向上効果のうちの~25%くらいを説明しているそうです。

ヴェイパーフライの4%の要素は分解できるのか?

ヴェイパーフライの三要素を見てもわかるように、これらはお互い関係しあっているのである要素だけを取り出して特定の要素だけを規制するのは難しいようです。ヴェイパーフライの高い反発性とクッション性は、ZoomXフォーム自体の特性+カーボンプレート+厚さが相互に影響しあって実現しているからです。

公平性を保つためにどのような規制が必要か?

この論説の著者らは単純にソールの厚さによる規制を提案しています。反発係数などのメカニカルなパラメータを介さず、外見的な特徴から判定できますし、さらに幅跳びや高跳び用のシューズはすでにソールの厚さに制限があるという前例があります。幅跳びは13mm、高跳びは18mmまでのようですね。

この制約によってシューズの「バネ」としての機能に一定の制限を加えることができます。ヴェイパーフライ4%のエナジーリターンは87%にも達するようですから、もし厚さ制限ができたならその制約の中で100%に近づける開発競争が行われることになります。

ヴェイパーフライ4%の厚さ31mmを上限とするなら、現在のシューズはギリギリルールに則っていますし、過度な厚さ競争に対する歯止めになるでしょう。

ヴェイパーフライは規制されるのか?

私も分野は全く違いますがエンジニアの端くれとして、ここまで革新的なシューズを作るのは並大抵のことではなかったと想像できます。ここまで世界を変えてしまったNikeの開発者にはただただ尊敬の念しかありません。

ただスポーツにおいて、競技本来の性質を変えかねない行き過ぎたテクノロジーは度々規制の対象になってきました。

水泳の水着(レーザーレーサー)、軟式野球のバット(ビヨンドマックス)、ゴルフのドライバーの反発係数制限などが有名だと思いますがまだまだ探せばあるでしょう。これらも今回のヴェイパーフライの議論と同様に、公平性やスポーツの質そのものを変えてしまう懸念から規制されたのだと理解しています。

IAAFが最終的にどのような結論を出すかわかりませんが、ESPNやBBCが伝えるところによれば IAAFは以下のようにコメントしているようです。

いくつかの技術がスポーツの価値とは相容れないサポートをアスリートに提供しているのは明らかだ。IAAFの課題は新技術の開発と使用の促進と、普遍性、公平性の維持との間で適切なバランスの技術的ルールを見出すこと

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191019-00000085-dal-spo

このコメントを見る限りは何らかの規制が入る可能性は高いと思います。

私自身の意見としては、シューズで明らかに差がつく現在の状況は競技として健全ではないと思います。私自身も一市民ランナーとしてVF4%の恩恵を感じていますが、VF4%でPBを出したときも心から喜べずどこか違和感を感じてきました。

自分の過去の記録もヴェイパーフライの有無で公平な比較が難しくなってしまい、自分の走力向上を信じれなくなったのが違和感の原因だと思います。

まぁ今の私の力では5000m15分台もマラソンサブ35も狙うには力不足なので、ヴェイパーフライを履いちゃうんですが。

最後に、東工大初の箱根ランナー・松井将器さんのヴェイパーフライ感想です。

コメント

  1. ようすけ より:

    1ヶ月半以上前の記事にコメントすみませんです。

    日本は世界一のナイキ好き国ですので、ごっきー様のような冷静な見解を読めるのは嬉しい事です。殆どの方が贔屓の引き倒しでナイキ絶賛ですから(汗)

    私的にはズームX+カーボンプレートの組み合わせがバネ効果があるとみなされて規制が入ると見ています。もちろんキプチョゲ選手がサブ2を達成したシューズはアウトです。
    なお、ズームXだけのペガサスターボとカーボンプレートだけのズームフライは問題なしかなと思います(ソールの厚さの規約が変わってアウトになる可能性はあるかもしれません)
    アディダスがBOOST+カーボンプレートのシューズを作ったものの正式発表していない、サッカニーがカーボンプレート入りシューズ(ズームフライと近い感じとの事です)を発表したものの発売は来年の春にしたのもヴェイパーフライに規制が入る可能性が高いと見ているからかもしれません。

    私は甲高ハイアーチでナイキのシューズはどれを履いても甲が痛くなるので購入する事はありません。ちなみに愛用しているのはミズノです。
    おそらく走法や足型が合わないのに無理してヴェイパーフライを履いているランナーもいると思いますので、そういうランナー達が故障等、何かしらの弊害が出るのが気がかりです…

    • ごっきーごっきー より:

      ヴェイパーフライは周りが履いて記録伸ばしているから履かざるを得ないという人も多いと思います。私もこれで記録を更新してしまいましたが、いっそ禁止されて別のシューズでその記録を目指したいとか思ったりします。

      • 匿名 より:

        シューズを悪く言うなら使うな。お前はヴェイパーを履く権利がない

        • ごっきーごっきー より:

          貴重なご意見ありがとうございます。シューズが悪いというかルールの不備ですかね。駅伝や参加標準記録がかかるレースでは使うと思いますが、それ以外で使うかどうかは慎重に判断しようと思います。