レース中に筋痙攣に苦しまれるランナーも多いと思います。
私もフルでサブ50くらいまでは特に経験したことがなかったのですが、ここ数年でレース中にふくらはぎやハムが痙攣を起こす頻度が増えました。
マラソンのみならず5000mでもラストスパート時に痙攣して転倒し、這ってゴールしたこともあります。
スピードが上がってきて負荷がかかる場所が変わってきたり、加齢とともに体に変化が起きてきたのが原因だと思います。痙攣が起きてしまうと、脚が残っていたとしても攣るのが怖くて思いっきり蹴れないのがもどかしいですね。
筋痙攣は古くから研究対象となっていますが、その原因については未だに科学的な結論は確立していないようです。
ただ仮説レベルでよく言われるのが、脱水+電解質不足(ナトリウム、マグネシウム、カリウムなど)が痙攣を引き起こすという説と、筋疲労により神経筋が誤動作を起こして痙攣するという説。
これらの二大仮説を比較した論文サーベイ論文があったので紹介します。
脱水+電解質不足説
メカニズムは読んでもよくわからなかったので省略。
以前は多くの研究者たちに受け入れられていた主流な説でしたが、最近は反証を挙げる研究も出てきています。例えばある研究によればマラソンやトライアスロンで筋痙攣を起こした選手と、そうでない選手の血中の電解質濃度を比較したところ違いが見られなかったというものがあります。
この説についての研究例は以下のようなものがありますが、多くは20世紀のもので、最近は神経筋説のほうが主流らしいです。
研究 | 実験モデル | 結果と結論 |
---|---|---|
(Armstrong et al., 2007) | 高強度、長時間運動 | 筋痙攣は激しい運動と関連がある |
(Bergeron et al., 1995) | 高強度、長時間運動 | 高温環境 により Na+とCl−の低下し、筋痙攣の一因となる |
(Braulick et al., 2013) | 適度な運動 | 水分補給不足+電解質の低下は痙攣と関係ない |
(Cooper et al., 2006) | 3ヶ月のトレーニングキャンプ | 最初の数週間のトレーニングで熱痙攣が多い |
(Edsall, 1908) | 事例観察 | 高温環境が原因 |
(Garrison et al., 2015) | 時系列データの検査 | 脚の痙攣は季節性がある(暑い時期に多い?) |
(Hoffman and Stuempfle, 2015) | 高強度、長時間運動 | 水分補給不足+電解質の低下は痙攣と関係ない |
(Maughan, 1986) | 高強度、長時間運動 | 水分補給不足+電解質の低下は痙攣と関係ない |
(McCance, 1936) | 低ナトリウム血症+水分補給不足が痙攣の一因 | |
(Nadel and Mack, 1993) | 痙攣は神経圧の増加が一因 | |
(Nielsen et al., 1997) | 高温高湿度下の運動 | 高温多湿での影響は小さかった |
(Schwellnus et al., 2004) | 高強度、長時間運動 | 水分補給不足+電解質の低下は痙攣と関係ない |
(Stofan et al., 2005) | トレーニングキャンプ | 水分補給不足が痙攣を起こす確率を上げる |
(Sulzer et al., 2005) | 高強度、長時間運動 | 水分補給不足+電解質の低下は痙攣と関係ない |
(Talbot, 1935) | 事例観察 | ハードワーク+高温+大量の発汗は熱痙攣の一因である |
こうしてみると、この説を支持しているのはかなり古い研究ばかりで、最近の研究はこの説を否定するものが多い印象です。
神経筋説
1997年の研究 (Schwellnus et al.)が発端のようです。
筋疲労が原因でα運動ニューロンの活動が活発化→筋細胞の活動が活発化→筋痙攣という流れのようですが私もよくわかってません。まぁ筋疲労が原因で神経が異常動作を起こす、脊髄もなんか関係している、くらいの解釈でいいでしょう、たぶん。
この説に関する研究としては以下の事例があるようです。ちょっと専門用語が多くて私もろくに理解してないですが、最近はこちらの研究のほうが活発な感じですね。
研究 | 実験モデル | 結果と結論 |
---|---|---|
(Baldissera et al., 1991) | 神経幹の電気刺激 | αニューロン細胞体が原因 |
(Baldissera and Cavallari, 1994) | 神経幹の電気刺激 | αニューロン細胞体が原因 |
(Bertolasi et al., 1993) | 神経幹の電気刺激 | 筋痙攣は筋肉へのダメージが原因 |
(Braulick et al., 2013) | 適度な運動 | 神経筋の制御が筋痙攣において重要 |
(Hoffman and Stuempfle, 2015) | 高強度長時間運動 | 筋痙攣は筋肉へのダメージが原因 |
(Khan and Burne, 2007) | 最大随意収縮 | 筋痙攣は腱求心性神経の刺激によって抑制できる |
(Minetto et al., 2009) | 電気刺激 | 求心性入力の拡散により痙攣が伝搬する |
(Minetto et al., 2011) | 電気刺激 | 痙攣の原因に脊髄が関与している |
(Merletti et al., 2011) | 電気刺激 | 脊髄に痙攣を促進するメカニズムがある |
(Norris and Gasteiger, 1957) | 最大随意収縮 | 痙攣の抑制はゴルジ腱期間抑制経路に関連がある |
(Obi et al., 1993) | 電気刺激 | 神経麻酔後に痙攣の誘発なし |
(Roeleveld et al., 2000) | 最大随意収縮 | 神経インパルスで痙攣が伝搬 |
(Ross and Thomas, 1995) | 最大随意収縮 | シナプス入力の変化が筋痙攣を引き起こす |
参考情報
SC runnerさんの神記事。こちらでも神経筋説が有力だろうとおっしゃっています。
RUNNETのアフィ記事。両方の説の対策を解きつつ、芍薬甘草湯の宣伝がメインです。ちなみにこのサーベイ論文では芍薬甘草湯やその成分についての記述は見つからなかったです。私もおまじない程度に持っていきますが効いたと思える経験はなし。プラシーボ効果にもなっていないですね・・・
まとめ
- 筋痙攣については運動生理学の分野で広く研究されているようだけど、その原因はまだ仮説レベルだよ
- 以前は水分補給不足+電解質不足説が主流だったけど、最近は神経筋説の研究が活発だよ
- どちらの説も捨てきれないから、結局は両方の対策(水分+電解質をこまめにとって、脹脛を使わない走りを習得する)をするのが安心だよ
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