練習にトレッドミルを取り入れる方は多いと思います。私も天候が悪いときや夏場の暑さが厳しい時期はよくお世話になっています。全米のランナー調査によると14%のランナーはトレッドミルを使った練習を取り入れているようです。
また一流アスリートも補助トレーニングとしてトレッドミルを使っています。有名なのはハイレ・ゲブレシラシエ選手ですね。
またトレッドミルは位置が固定なのでフォームの確認などにも使われますし、医療関係者にはリハビリにも利用されたりします。
しかしトレッドミルを走るときとロードを走るときに同じフォームで走れているのか気になる方は多いと思います。
今回はそんな疑問に答える文献を紹介しようと思います。
邦題:トレッドミル走行はバイオメカニクス的にロードランニングと同等か?系統レビューとクロスオーバー研究のメタ解析
調査方法
4つの文献データベースから関連する33研究を抽出し、メタ解析を行います。これらの文献では合計494人の18歳~65歳までの被験者が含まれます。
それぞれの文献では被験者が様々な路面(芝生、トラック、コンクリートなど)とトレッドミルを走り、それぞれのバイオメカニクス的指標(接地時間、滞空時間、ストライド、接地時の足・膝の角度、スイング中の膝の最大屈曲角度、等)を比較しました。
比較結果
接地・滞空時間・ストライド長
接地時間に関してはほとんど差はなかったようですが、トレッドミルの方が平均で5msほど長くなったようです。滞空時間についても同様で大きな差は無いです。
ストライド長に関してもやはり大きな差はないですが、 速度が上がるにつれてストライドは長くなっていきます。これは当たり前ですね。
足首
接地時の地面との角度はトレッドミルの方が平均-9.8度有意に低かった(よりフラットに近くなった)ようです。
接地時の足首学度、支持局面や足首の背屈運動範囲などその他の項目について、個別の研究では差があるものもありますが全体で見れば有意な差はないようです。
膝
接地時の膝屈曲角度について、ある研究ではトレッドミル時はトラックより-2.7度、すなわちより屈曲していたということです。全研究結果の平均でも-2.3度で有意な差があったようです。
また接地時から最大屈曲時までの範囲はトレッドミルの方が有意に小さかったようです。
その他の項目(スイング中の最大・最小角度、離地時の膝角度、内旋、外旋)については有意な差なし。
股関節
接地時の股関節の屈曲、支持局面のピーク屈曲・可動域、離地時の股関節角度等は有意な差なし。
ただし垂直変動量については有意に低かったようです。
運動学的な比較
ピーク推進力はトレッドミルの方が有意にやや低いようです。
また、足首矢状面関節モーメントが有意に高いそうです。
比較結果のまとめ
黒字の部分が全体でみて差分があった点、灰色の部分はある研究では差分があったとするものです。
トレッドミルの走行について他の路面での走行との差を改めて整理すると、
- 垂直変位は低下
- 接地時の膝角度はより屈曲
- 膝角度の運動範囲は低下
- 接地時の足と地面との角度が低下(よりフラット)
- ピーク推進力が低く、矢状面関節モーメントが高い
- 接地時間はわずかに上昇
となります。
考察
ほとんどの測定値に関しては有意な差はないですが、一部大きな差異が確認されました。その原因としてこの文献で挙げているのが以下の5つ。
- ベルトの剛性
- 速度の変動
- トレッドミルへの慣れ
- 空気抵抗
- 知覚の違い
個人的には空気抵抗の有無はかなり大きいです。また、一般的にトレッドミルのベルトは弾性が高めなのでタータンを走っているのと同じレベルで走れると思います。
速度の変動については、体重が重い人ほどモーターの出力が負けて速度が安定しないようです。
知覚については、トレッドミルとロードではトレッドミルの方が体感的に速く感じる場合が多いようですが、実際は同じ速度で傾斜0なら空気抵抗がなく常時追い風状態なのでトレッドミルの方がはるかに楽ですね。
ダニエルズ先生のトレッドミル論
ダニエルズのランニングフォーミュラ第3版にはトレッドミルトレーニングについての記述が充実しており、ダニエルズ先生曰く屋外と同じ負荷をかけるなら2%の傾斜が必要なようです。個人的には2%つけるとロードよりきつくなる気がしますが・・・
また、ダニエルズ先生はトレッドミルが表示する速度を信用しておらず、実際のベルトの回転速度を測って実際の速度とマシンの表示速度からキャリブレーションする計算式を提案しています。真のダニエルズ信者はここまでやるのでしょうが、ジムのトレッドミルでいちいち回転速度を測ってキャリブレーションしている人がいたら不審者ですね。さすがに私もやりません。
基本的には同じジムの同型のマシンならそれほどマシン間でバラツキはないでしょうから、そのマシン内の速度ということで割り切ってます。
なお私の通っているジムでのテンポランの定番メニューは18km/h(3’20″/km) x 30分ですが、ロードではまずできないです。トラックでも10000m33分半切るレベルですから今の力ではヴェイパー履いても届かないレベル。常時追い風状態と考えればこんなものかなという気もします。
まとめ
- トレッドミルとロード走行時ではいくつかのバイオメカニクスパラメータが異なる可能性があるよ
- その原因は5つほど考えられるけど、個人的には空気抵抗の有無が一番大きいと思うよ
- ロードとの違いが出やすい部分に気をつけてフォームを意識すると、ロードとの差がなくなるかもしれないよ
コメント
はじめまして。
いつも興味深く楽しく拝見させていただいております。
最近トレミを使ったトレーニングに興味があり、
色々調べたり実践したりしていたところ、
ちょうどテーマとして取り上げていただいたので
ご意見を伺いたく投稿させていただきました。
ダニエルズ先生のトレッドミル論のくだり、
屋外走行相当にするための傾斜についてなのですが、
ごっきーさんも書かれている通り、2%は強すぎると思います。
個人的には1%でも実走よりやや強くなると感じています。
R.Fでダニエルズさんははっきりと「2%を薦める」と書いていますが、
そうすると一方でR.Fにはトレッドミル運動強度表というものが掲載されており
これと食い違ってしまいます。
これがどういうことなのか私なりに考えたのですが、
文脈からみると2%と言うのは「走行感覚に関してのみ」の話ではないかと推察しました。
負荷が屋外実走と同程度になるとは言っていなかったような気がします。
つまりトレミでキロ3:55(15.3km/h)を実走に近い感覚で行いたい場合は
強度表に従って、13.7km/h 傾斜2%(キロ3:56相当の負荷)で
行えば屋外と同感覚同負荷いう意味かと解釈しました。
そうであれば「2%がおすすめ」の記述と強度表との
矛盾がなくなると思うのですがいかがでしょうか?
長文失礼いたしました。
ごっきーさんのご意見やご指摘いただけましたら幸いです。
返信遅れてすいません。
なるほど、ここまで考えたことはありませんでした。
私はトレミの速度はロードと違うものとして考えていて、心拍数の変化などをモニタしつつトレミ内の速度変化でトレーニング負荷を調整しています。
2%はたしかにきつすぎますよね