ヴェイパーフライについてNikeとは独立した機関による検証論文はいくつか出ており、当ブログでも紹介してきました。
これらの検証論文の被験者達は10000m31分以内といったエリートレベルのランナーで、ランニングエコノミーが平均4%、しかも被験者18人全員改善したという驚くべき結果でした。
ただ、多くの方がその効果を実感している通り、このレベルでない市民ランナーにとっても大きな効果がありますし、ニューヨーク・タイムズ紙によるStravaデータの解析からもそれは明らかです。
これを踏まえて、もしレクリエーションレベルのランナーでもエリートランナーと同様にランニングエコノミーが4%改善するなら、むしろ遅いランナーの方が恩恵が大きい可能性を以下の記事で指摘しました。
ニューヨーク・タイムズ紙の統計分析からも遅い群の方がタイム向上率が高い傾向があり、この説も一定の説得力があると思います。
ところが肝心のレクリエーションレベル・ランナーのヴェイパーフライによるパフォーマンスの変化を調べた研究は今までありませんでしたが、ニュージーランドのワイカト大学で研究された内容がこの度SportRxiv(スポーツサイエンス系のarXiv)で公開されたので紹介します。
検証方法
18人のレクリーエーションレベルの男性18人が被験者です。平均年齢は33歳で平均VO2peakは55.8と、レクリーエーションレベルとはいってもマラソンサブ3前後の走力だと思われそれなりに練習しているランナー達です。
これらのランナーたちについて、VO2peakの60%、70%、80%で3種類のシューズでトレッドミル走行してもらいそのランニングエコノミーを測定し、さらに3kmのTTを実施しました。60%~70%はダニエルズ先生によるEペースの範囲内、80%はマラソンペースよりやや遅めのペースとなります。
使用したシューズはNike Vaporfly 4%(NIKE)、Saucony Endorphin Racer 2(FLAT)、自分が普段履いているランニングシューズ(OWN)の3種類です。
研究室には4回来てもらい、初回がVO2peakの測定、2回目以降は60%、70%、80%でのRE測定と3kmTTを実施し、以降シューズをランダムに変えて4回目まで測定を行います。各訪問間隔は4~7日で十分に回復するように設定しています。
3つのシューズについては以下の通り。サッカニーについては全然詳しくありませんがめっちゃ軽いですね。ドロップも1mm、厚さも13mmとほとんどなく、まさにレーシングフラットです。
測定結果
ランニングエコノミー比較
真ん中がヴェイパーフライで、酸素摂取量が低いほどランニングエコノミーが高いわけですから、ヴェイパーフライが一番いいシューズならば真ん中が凹むはずですが、何人かはそうなっていないのがわかります。
またREの測定と同時に血中乳酸濃度や心拍数の測定、主観運動強度(RPE)の申告などもしたのですが、これらは平均で見れば全て下がりました(改善しました)。ただOWN vs FLATでも同様に改善傾向です。
REの改善んいついて平均で見ると、OWNと比較してNIKEで3.6~4.5%(p≤0.002)、FLATで2.4~4.0%(p≤0.042) と大きな差はありませんでした。
3kmTT
これもヴェイパーフライが真ん中なので、一番いいシューズなら真ん中が一番凹むはずですが、悪化している人が何人かいます。
平均で見ると、ヴェイパーフライはOWNに対して-16秒、FLATに対して-13秒とキロ5秒くらい差をつけて圧勝しているわけですが、18人中ヴェイパーフライが最速だったのは11人(61%)だけでした。残りの内訳はFLATが4人、OWNが3人。OWNの3人はどんだけ良いシューズを持ってきたのか。
両方の結果を合わせると、ヴェイパーフライでREが最高かつ3kmTTが最速だったのは全体の29%のみという結果でした。他の71%は4つの測定項目のうちどれかは違うシューズで最高値を叩き出したようです。このうち4人は非リアフットランナーが含まれています。つまりフォア/ミッドフットランナーでも効果がないランナーがいたということになります。
感想
個人的にはヴェイパーフライを履けば誰でも目に見えるレベルで改善するだろうと思いこんでいましたが、そうならなかったようで興味深い結果でした。
ただ、OWNが個人によってバラバラなのでなかなか一貫性のある評価をしにくいですね。
また被験者の中にはヴェイパーフライを初めて履いたというランナーも何人かいたでしょうし、慣れるまでの時間が十分でなかった可能性もあるかもしれません。3kmTTの平均だけ見れば圧倒的な差に見えますが、個別に見るとうまく適応できなかった被験者や、すでに慣れているOWNの方がうまく走れたという被験者も多いように感じます。
今回の評価ではヴェイパーフライ4%での評価ですが、よりスイートスポットが広くなったという評価を聞くことも多いNext%ではどうなるのかも気になります。
まとめ
- レクリエーションレベルのランナーがヴェイパーフライを履いてもランニングエコノミーや3kmTTが改善しない被験者もいたよ
- 全部の項目がヴェイパーフライで最高だったのは全体の29%のみだったよ
- OWNの個人差だったりヴェイパーフライに慣れていたかなどいくつか気になる点はあるけど、全体的には興味深い結果だよ
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