マラソン練習の定番であるロングラン。マラソンを走る多くの方が練習に取り入れていると思います。
ロングランの効果として期待されるのは、ダニエルズ先生によれば心血管系の改善および脚作り。有酸素運動能のベースとなる部分を作る練習と言えます。そのベースの上にLT、VO2maxを積み上げていくのが王道と言えるでしょう。
近年の研究でランニングエコノミーの重要性が認知されるにつれ、様々なトレーニングとランニングエコノミーの改善についての研究がされてきましたが、ロングランがランニングエコノミーに与える影響についてはこれまであまり研究されてきませんでした。
様々なトレーニングとランニングエコノミーとの関連を調べた研究では、下り坂を走って生じた遅発性筋肉痛時ではランニングエコノミーの低下が観察された一方、別の研究では筋肉損傷が起きてもランニングエコノミー自体は変化がなかったとする報告もあります。
一般的な感覚としてロングランで筋肉にダメージがある状態だとその後の練習の質は落ちまずから、ランニングエコノミーも下がっていると思われますが、それをちゃんと確認したのが以下の文献です。

実験方法
あるランニングクラブから募集した15人の男性が被験者。参加者は少なくとも週間で4~5日、平均56.3kmを走るランナー(一部トライアスリート)です。
すべての参加者はマラソントレーニングを行っていますが、データ収集の前後はロングランをしないようにし、1回の走行距離は週間走行距離の15%までとするように指示されました。
参加者のプロフィールは以下。

測定の手順は以下。
まず最初にベースラインの能力を確認するため研究室を訪問し、VO2maxやRE(3.1m/s, 3.6/ms, 4.0m/sの3点)、筋力などを測定します。
次に26kmのロングランを行います。ペースはHRmaxの60%~75%。ダニエルズ先生のEペースの範囲内くらいですね。
その後、24時間、48時間、72時間後に研究室を訪れ、VO2max以外の項目を再び測定し、ロングランの影響を確認します。
結果
26kmのロングランは平均HR 153.1±12.2 bpmで125.5±13.7分で行いました。平均VO2maxが63前後とかなり走力の高い被験者群なので、これくらいは大した負荷ではないでしょうね。このロングランで体重は平均1.38kg減ったようです。
筋肉の損傷
筋肉の損傷具合を見るためには、筋肉が分解された副産物であるクレアチンキナーゼ(CK)という物質の血中濃度を測定するのが定番ですがこの実験でも同様です。その結果が以下。3日後でも平常時の水準には戻っておらず、ダメージが残っているのがわかります。

別の研究でもマラソンを走ったあと6日程度は血中のクレアチンキナーゼが高い状態が続くと報告されており、この研究結果も距離は短いにしろその報告を裏付けるものですね。
ランニングエコノミーやその他指標
結果は以下の通り。

ロングラン後の3回の測定ではいずれもランニングエコノミーに有意な変化はありませんでした。 肺でのVE(換気)、RER(換気率)、SR(Step Rate:1分間のピッチ数)、VJ(垂直跳び)についても有意な変化はなし。
クレアチンキナーゼの比較で筋肉に損傷があるのは確実なのですが、それがランニングエコノミーには影響しないという結果でした。前述の研究では下り坂で遅発性筋肉痛を発症した状態ではランニングエコノミーが低下するという報告があり、それとは矛盾する結果と言えるでしょう。
感想
ロングランを題材にした文献は少ないので、興味深い内容でした。
著者らはランニングエコノミーは下がるのではないかと仮説を立てていますし、一般的には筋肉の損傷によって筋繊維あたりの出力は低下し、トレッドミルのように一定出力を続ける運動の場合は酸素コストが上がる(すなわちランニングエコノミーが下がる)と考えるのが自然です。
一方、血中マーカー的には筋繊維の損傷が見られるのにランニングエコノミーが変わっていない説明として、先に速筋線維が損傷して遅筋線維がそれほど損傷しておらず、ランニングエコノミーの変化としては現れなかったのではないかと考察しています。
垂直跳びが変わらなかったのもランニングとの相関度がそれほど高くないのが一因かもしれません。
まとめ
- ロングラン後のダメージでランニングエコノミーが低下するのかどうかを調べたよ
- 血中マーカー的には筋肉に損傷が見られるのに、ランニングエコノミー自体は有意な変化がなかったよ
- 速筋が先に損傷して遅筋はそれほど損傷していない可能性を考察しているけど、確認のためにさらなる研究が必要そうだよ
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