名古屋ウィメンズマラソンで日本人国内最高記録、女子のみのレースでの日本記録を樹立し、MGCのファイナルチャレンジを制してマラソン五輪代表に内定した一山麻緒選手。
30kmからのロングスパートは圧巻で、30kmまでの3’20″/kmペースでもかなり余裕があったのが想像できます。
そんな彼女がやっていた練習として大きく取り上げられたのが、こちらの練習。
その一つが大会直前の先月、アメリカの高地で行った5キロ走を8本繰り返す過酷なトレーニングです。最初の6本、つまり30キロまでは「1キロ3分20秒」という今回のレースでねらうタイムを設定。30キロを過ぎた次の2本はさらにスピードを上げる練習でした。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200308/k10012320061000.html
マラソンペース~やや速めでの5km x8本という練習ですね。考えただけでもかなりの高負荷なのが想像できます。分割はしていますが、基本的にはロングランの位置づけでしょう。
マラソンに特異的な練習であるロングランですが、選手によって様々なやり方があります。この記事ではいろんなロングランの練習について紹介していきます。ソースは主に以下のサイトから。
リディア・シモン選手の10km x3
シドニー・オリンピックで高橋尚子選手が金メダルを獲得しましたが、そのレースで高橋選手と最後まで競り合って8秒差で銀メダルを獲得したルーマニアのリディア・シモン選手。34kmまで競り合うもそこから遅れ、40kmでは28秒差まで離されてしまいましたが、最後の2.195kmで20秒詰めるという驚異的な追い上げでした。
その翌年のエドモントン世界陸上では、今度は土佐礼子選手とデッドヒートを繰り広げ、最後はトラックで突き放し5秒差で金メダルを獲得、念願の世界一となった名選手です。自己ベストは大阪国際女子マラソン3連覇を達成したときの2時間22分54秒。
そんな彼女が練習で取り入れていたのがこの10km x3(レスト10分)という練習。10kmは33分程度(3’18″/km)とマラソンペースよりやや速めで、しかも未舗装路で実施していたようなのでかなりきつい練習なのが想像できます。他のランナーと同時にスタートすることもあったようですが、最後までやりきれたのは彼女のみ。
シモン選手いわく、マラソンのラストでの精神的な面にも効いてくるそうです。
いきなりこれがきつい場合は10km x2や5km x3からやるのがいいとのこと。
ソンドレ・モーエン選手の(2km+1km)x10の変化走
福岡国際マラソン2017で2時間5分48秒という当時のヨーロッパ新記録・非アフリカ系で公認レース初の2時間6分切りで優勝したソンドレ・モーエン選手。大迫選手が2時間7分台で3位に入ったレースですね。
彼はケニアに家を買ってケニアの高地でトレーニングしていることで有名です。そんな彼のロングランの練習例が、この変化走。
2kmを3’00″~3’05″/km、1kmを3’20″~3’25″/kmのセットを10回、ノンストップで行う変化走です。これを2000m以上の高地で行っているので、2kmの部分の心肺的な負荷はマラソンペース以上でしょう。このように一定ペースで走らず変化をつけてロングランを行うエリート選手は多いですね。
ステファノ・バルディーニの4km+3km+2km+1km
アテネオリンピックの男子金メダリストであるイタリアのバルディーニ選手。アテネの女子マラソンはご存知の通り野口みずき選手が金メダルを獲得しましたね。
このレースでは36kmまでトップを走っていたバンデルレイ・デ・リマ選手が沿道から乱入した観客に抱きつかれて転倒。10秒ほどロスしてすぐに復帰するもそこから失速してしまい銅メダルに終わったという出来事の方が有名になってしまい、金メダリストのバルディーニ選手の影が薄いのですが、世陸でも2度銅メダルを獲得しており、名選手なのは間違いないでしょう。
PBは2時間7分22秒。
そんな彼が取り入れていた練習が、22.5kmまでキロ4で走り、そこから4km+3km+2km+1kmをマラソンペース(キロ3前後)で走り、間はマラソンペースより5%遅い(3’10″/km前後とそれでもかなり速いが)ペースで走る合計35.5kmのロングランです。
前半のキロ4は彼にとってはイージーですが、イージーでも距離を踏めばダメージはあるのでその状態でマラソンペースを走り、マラソン本番での後半をイメージした練習だと思われます。
ジョフリー・ムタイ選手の20kmBU+3km x3
ジョフリー・ムタイ選手は2011年のボストンマラソンで2時間3分2秒の非公認世界記録を出して優勝し、一躍有名になった選手ですね。その次のNYCマラソンでも起伏のあるコースで2時間5分6秒の大会記録を2分37秒も更新する走りで優勝。この記録はフラットなコースなら2時間2分~3分台前半に相当すると言われた記録で、この当時は世界記録保持者だったマカウ選手より強く、世界最強と目された選手でした。
しかし、2012ロンドン五輪では選考レースだったボストンマラソンで体調不良により棄権、代表を逃してしまいました。このときのケニアの選考は有力選手6人による熾烈な3枠の争いで話題になりましたね。
そんなムタイ選手のロングラン練習がこちら。
20kmのBU走部分は3’50″/kmから始まって3’25″/km程度まで上げて終了。そこから少し給水して、2’55″~3’00″/kmで3km x3をこなし、緩走部分は3’30″/kmで1km。これも高地で行っているので、疾走部分の心肺的な負荷はマラソンペース以上ですね。
レナート・カノーバコーチによるトレーニングの一例(2時間5分の選手向け)
カノーバ氏によるエリート選手向けのロングラン練習例がこちら。
- 5km x5をマラソンペースの101%、リカバリはマラソンペースの89%で1km
- 7km x4をマラソンペースの99%、リカバリはマラソンペースの91%で1km
- 30kmをマラソンペース100%
- 35kmをマラソンペースの97%
- 40kmをマラソンペースの92%
市民ランナーの間でも定番と言えるマラソンペースでの30km走はカノーバ式でも出てきますね。
インターバルで分割する形式も緩走でもかなり速めなので変化走的な感じです。これもどれもめちゃくちゃきつそうです。私のレベルなら直前の練習量を少し落とせばできそうな気がしますが、毎週やれと言われたら無理です。エリートランナーのレベルではさらに体への負荷は高そうですからとても毎週はこなせないと思うのですがどうなんでしょう。
感想
さすがエリート選手のロング走はどれもどんでもないですね。エリート選手の場合は最後まで一定ペースで走るということはなく、多少の揺さぶりがあるのでロング走の中でペースに変化をつけている場合が多いです。
また疾走部と緩走部に分割した場合でも緩走部はそれほど落とさず、疾走部はマラソンペース以上で走ることも多いようです。
マラソンペース前後のロングランは負荷が高く、高頻度でやると他のスピード系の練習の負荷が落ちてしまうので入れるタイミングが難しいですが、市民ランナーでもエリートランナーの練習を参考に取り入れるべきところは取り入れていきたいですね。
これら世界トップクラスのエリート選手の練習と比較しても、やはり一山選手のこなした5km x8という練習が一番きつそうな印象です。今回の名古屋の走りをいいコンディションの高速コースで再現できれば日本記録更新は確実でしょう。
ヴェイパーフライが出てきて日本記録が3度更新された男子と違い、女子は未だに野口みずき選手の記録が15年破られていませんから、そろそろ2時間18分台が見たいですね。
まとめ
- 一山選手の5km x8という練習が話題になっているけど、エリートランナーもいろんなロングランのバリエーションを試しているよ
- 後半だけマラソンペースで走ったり、緩走が速めの変化走として取り組むパターンも取り入れているよ
- 一山選手の今回のパフォーマンスが再現できれば日本記録更新は確実だと思うので今後が楽しみだよ
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