ファンラン志向、記録・競技志向であろうが練習時間の多くの割合を占めているであろうジョグ。
イージーラン、リカバリランなど人それぞれいろいろな呼び方がありますが、ポイント練習以外で走る練習をこの記事ではとりあえずジョグとひと括りにしておきます。
様々なランナーの練習を見ているとジョグのスピードも様々ですね。基本的には好きなペースで走れば良いと思いますが、練習時間のうち多くの割合を占めているわけで、できるだけ効率良いペースで走りたいと考える方は多いでしょう。
例えば多くの方が取り入れているであろうダニエルズのEペースの場合では、VO2maxの59%~74%(HRmaxの65%~78%)という定義で、その目的は故障への耐性、心血管系の強化、毛細血管の新生としています。
原著にはこのゾーンについてのエビデンスは特に示されていないので、無条件でダニエルズ先生の言うことを信じるならこのペースで走っても全然問題ないですが、これだけでは納得できない方も多いでしょう。
というわけでジョグの練習効率を高めるためのエビデンスについてまとめます。参考にしたのは以下の記事。
そもそもなぜジョグが必要か?
まずジョグの必要性について理解しておく必要があります。マラソンは言うまでもなく、その代謝のうちのほとんどを好気代謝(酸素を使ってエネルギー生産)でまかなっています。そのため好気性代謝能を高めるトレーニングに重点が置かれるのは当然です。
この好気性代謝能には様々な要素が複雑に影響しますが、酸素を肺で血液中に取り込み、心臓で血液を送り出し、活動筋内のミトコンドリアに酸素を届けるという一連の流れに必要な要素をそれぞれ鍛えていく必要があります。
以前VO2maxの限界についての記事では、好気性代謝能の最大値付近では心臓の出力がネックになる場合が多いという研究結果を紹介しましたが、それ以下のペースでは末梢系の能力もより重要になり、ジョグは主にその点を鍛えることを目的として行います。
スピード練習だけやっていれば十分じゃないのという方もいると思いますが、これら抹消系システムを鍛えるためには長時間の刺激が有効という研究結果があるため、一流選手でも長時間実行可能なジョグが練習時間の多くを占めているわけです。
以下、主にジョグが刺激する抹消系の各要素を見ていきます。
ジョグに期待される主な効果
筋繊維の毛細血管発達
心臓から送られた血液は動脈から全身に行き渡り、最終的には筋繊維の毛細血管を経由して筋肉に酸素と糖を供給します。筋繊維の周囲の毛細血管の量が多いほど筋肉にこれらのエネルギー源を供給することができます。
毛細血管の発達は好気性のトレーニングにより起ることが知られていますが、その発達に最適なペースは60-77%VO2maxという研究結果があるようです。
筋繊維のミオグロビン量増加
ミオグロビンは酸素を筋肉細胞内のミトコンドリア(後述)に運ぶ役割を果たしています。そのためミオグロビンが多いほど筋肉中のミトコンドリアに酸素を多く供給できます。
ミオグロビン量を増やすためには単純にその筋繊維を最大に刺激することが必要であると考えられ、持久系スポーツではタイプI(遅筋)をターゲットにすることを考えるとその最適な強度は63-77%VO2maxという研究結果があるようです。
ミトコンドリアの発達
ミトコンドリアは細胞内の小器官でエネルギー物質であるATPを生産します。ミトコンドリアが多いほど多くのエネルギーを生産できます。好気性トレーニングにより筋繊維内のミトコンドリアの量と大きさ両方を増加させることが知られています。
ミトコンドリアをより発達させるためにはある研究では50~75%VO2maxとし、別の研究では70~75%VO2maxで90分の刺激が最適という結果でした。
これらの効果を最大限発揮させるペースは?
上記3項目についてまとめると、以下のようになります。
%VO2max | 参考:サブ3ペースでのペース | 参考:サブ2.5ペースでのペース | |
毛細血管 | 60%-77% | 5’28”-4’29″/km | 4’35”-3’45″/km |
ミオグロビン | 63%-77% | 5’16”-4’29″/km | 4’25”-3’45″/km |
ミトコンドリア | 70%-75% | 4’50”-4’34″/km | 4’03”-3’50″/km |
ダニエルズEペース | 59%-74% | 5’33”-4’37″/km | 4’40-3’53″/km |
この範囲のペースでも速すぎるという人もいると思います。特に上限付近はマラソンペースに近いペースですから、多くの方はイージーとは言えない速度に感じると思われ、ロング走向きのペースですね。下限付近ならかなり走りやすいと思います。
もし基準としているVDOTがヴェイパーフライを履いて出したタイムで下限付近でもきつく、普段のジョグではヴェイパーフライを履かないならヴェイパーフライ分のランニングエコノミー補正を除いた真のVDOTで計算したほうがいいかもしれません。
なお、ダニエルズ先生のEペースの定義はVO2maxの59%~74%とほぼこの範囲なので、ダニエルズ先生もこれらのエビデンスを元にEペースの範囲を設計したものと思われます。
これより速く走ってもいいの?
もちろんこの範囲のペースでは遅くてストレスが溜まる、という人もいると思いますが、これ以上の速さで走っても毛細血管、ミオグロビン、ミトコンドリアの発達にはほとんど影響しないようです。
一方、速く走る分には筋や腱、骨や靭帯に負担がかかります。ポイント練後は筋肉にダメージを負った状態ですので、次のポイント練習に向けたリカバリが遅れてしまうというデメリットが生じ、故障の確率も上がるので必要以上にジョグペースを上げるのはデメリットのほうが大きいと言えるでしょう。
%VO2maxからペースに計算する方法がわからない
自身のVDOTと、速度とVO2の関係式を用いれば計算できます。ダニエルズ式ではこの関係式は二次式モデルなので二次方程式の解の公式で解けますが、計算な苦手な方のために以前私が作ったカスタム版VDOT計算機があるのでこれで%VO2maxに対応するペースが計算できます。
まとめ
- ジョグのスピードは人それぞれだけど、ジョグの目的とその効果を最大化するペースはある程度のエビデンスがあるよ
- 毛細血管、ミオグロビン、ミトコンドリアそれぞれの発達を考えたペースると基本的にはダニエルズのEペースがそのゾーンなのでそれより遅く走るのは時間効率が落ちると考えられるよ
- ジョグを速くしすぎても生理学的には大きな効果もなく筋肉的にはダメージが大きくなるのでデメリットのが大きいと思われるよ
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