ダニエルズ式トレーニングによる目標タイム別攻略シリーズ。今回はハーフマラソンで90分切りを達成するための練習例についてまとめようと思います。
ハーフマラソン90分切りの難易度
ハーフマラソン90分を切るためには、フルマラソンサブ3と同じペース、すなわち平均で4’15″/km前後のペースが必要です。マラソンでサブ3をイメージするためにも、このハーフ90分というのは最低限達成しておきたいタイムです。
見栄えも90分台か80分台かは大きく違いますね。
VDOTでいえばVDOT51前後、フルの等価タイムは3時間7分前後ということでかなりの走力が必要でしょう。
私の経験で言えば、フル3時間9分台の頃にサブ3に向けた練習でハーフ90分を狙った練習を一度やりましたが、ものすごくきつくてハーフなんて二度と走りたくないと思ったのを覚えています。
VDOTで見るハーフ90分切りに必要な能力
VDOT的にマラソンサブ3>10km40分>ハーフ90分の順に難易度が上がる感じですね。もちろん個人の特性によって10km40分の順序は変わるかもしれませんが。
レース時にスーパーシューズの恩恵が受けられる場合なら、マラソン3時間15分を切るぐらいからチャンスはあると思います。
以下では各ペースについて見ていきます。
Eペース:心血管系の能力向上
どの距離でも重要な有酸素運動能のベースを作る練習です。練習の半分以上を占めるジョグですがハーフ90分切りを狙うならEペースはキロ5分から5分半くらいが適正ペースなので、これを目安に走るのが時間効率的に有効です。
ロングランもこのペースで行っていきます。
Rペース:ランニングエコノミー、無酸素運動能
Rペースの目安が3’33″/kmなので、1km全力で走って3分半切れればスピードは足りていると言えるので、目標達成を急ぐならこのフェーズは飛ばしても問題ないでしょう。
1km3分半が無理な場合は練習として400mを84秒以内のレペティションを繰り返していきましょう。ウェイトやプライオメトリクストレーニングもランニングエコノミーを高めるためには有効です。
Iペース:有酸素運動能の上限(VO2max)
5kmや10kmと比較すると、レースペースはIペースからは遠いのでIペースの重要度は落ちますが、Tペースを引き上げるのにも有酸素運動能の上限を引き上げることは重要なので、Iペースによるインターバルも外せません。
Iペースの目安は3’51″/km。3’50″/kmを目安にしたインターバルをこなすのが基本になります。
具体的な練習メニューとしては1km x 5~6(3分レスト)や、400m x10~12(疾走90秒、レスト40秒)など。
Tペース:スピード持久力(LT)
ハーフマラソンの場合、タイムにも依りますがTペースがレースペースに最も近いペースになる場合が多いでしょう。
Tペースは定義の上では「レースなら60分程度持つペース」なので、その%VO2maxはおよそ88%前後です。ハーフ60分前後で走るエリートランナーならほぼTペースで走れますが、ハーフ90分(4’15″/km)となるとTペース(4’11″/km)よりはやや遅くなります。
そのため、特異性という点でもこのTペースでの練習を最も重視するべきだと思われます。
Tペースの目安は4’11″/kmなので、このペースでの20分走やクルーズインターバル1.6km x5などが典型的な練習例です。
練習計画例
上記の要素を鍛えるための具体的な練習の組み方ですが、ダニエルズ先生の期分けに従うとフェーズⅠはEペースのみ、フェーズⅡはE+R+(T)、フェーズⅢはE+R+I、フェーズⅣはE+R+I+Tとなります。Iペースは基礎が十分にできている場合は省略します。
以下はレースまで2ヶ月ほど9週間ある場合を想定し、フェーズⅡ~Ⅳまで各3週間ずつ取り組む例です。
フェーズⅡ(E+R):3週間
曜日 | ポイント練習 | 練習内容 |
---|---|---|
DAY1 | Q1:ロングラン | 5’00″/km x25km |
DAY2 | 5’00″/km x10km、WS x5 | |
DAY3 | Q2:レペティション | (200m(42″)・ジョグ200m)x8 (400m(84″)・ジョグ400m)x4 |
DAY4 | 5’30″/km x10km 、WSx5 | |
DAY5 | 5’30″/km x10km | |
DAY6 | Q3:レペティション +LTインターバル | (200m(42″)・ジョグ200m)x3 (1.6km(4’11″/km)・休息1分)x2 (200m(42″)・ジョグ200m)x3 |
DAY7 | 休み |
Rペースによるレペティションがメインの期間です。Q3の例のように時折Tペースを組み合わせるのは、レペティションで生じた乳酸をLT走によって効率的に使う能力を高めることが期待されます。
特にハーフマラソンではTペースが重要になるので、フェーズⅡから積極的に取り入れていきましょう。
フェーズⅢ(Iメイン+E+R+T):3週間
曜日 | ポイント練習 | 練習内容 |
---|---|---|
DAY1 | Q1:ロングラン | 5’00″/km x25km |
DAY2 | 5’30″/km x10km、WS x5 | |
DAY3 | 5’30″/km x10km | |
DAY4 | Q2:VO2maxインターバル | (1.2km(3’51″/km)・ジョグ3分)x5 |
DAY5 | Q3:LTインターバル | (1.6km(4’11″/km)・休息1分)x5 |
DAY6 | 5’30″/km x10km、WS x7 | |
DAY7 | 休み |
VO2maxインターバルがメインのフェーズ。5kmや10kmよりもハーフマラソンのレースペースはIペースからは離れますが、LTの上限を上げるためにもVO2maxの強化は重要です。
この例ではQ2、Q3とI+Rのセット練できついフェーズですが、なんとか乗り切りましょう。
フェーズⅣ(Tメイン+E+R+I):3週間
曜日 | ポイント練習 | 練習内容 |
---|---|---|
DAY1 | Q1:ロングラン | 5’00″/km x25km |
DAY2 | 5’30″/km x10km、WS x6 | |
DAY3 | Q2:LTテンポ走+レペティション | (4’11″/km x10分(R1分)) x4 |
DAY4 | 5’30″/km x10km | |
DAY5 | 5’30″/km x10km | |
DAY6 | Q3:T+I+Rの複合練習 | T:(4’11″/km x5分(R1分)) x3 I:(3’51″/km x3分(R2分)) x3 R: 400m(84″) x 4 |
DAY7 | 休み |
LT走がメインの練習になるのでQ2に最も集中します。この例では10分(R1分)x4のクルーズインターバルですが、連続で走りたい方はお好みでどうぞ。Q3は複合練習で3種それぞれの維持を図ります。
週間走行距離は各フェーズとも75km程度を想定しています。
最終的に目指すペースで記載していますが、いきなりこのペースが無理な場合はできるペースから徐々に上げていきます。VO2maxインターバルの場合は1000mが無理なら400mなどのショートインターバルからやるのもオススメです。この場合、400mのペースは1000mのときと同じか-1″/400mくらいのペースでいいと思います。
なかなか目標に到達しないなら、Eペース量を増やすのもオススメです。同じペースで走るときの心拍数が下がるはずです。
レース本番の走り方
準備
ハーフマラソンを90分程度で走り切る場合、基本的には体内に蓄えられたグリコーゲンで解糖系代謝を賄えるためレース中の補給は不要です。気温によっては水分補給は重要ですが、ジェルなどを携行する必要はないでしょう。
最初の5km
どの距離のレースでもそうですが突っ込みすぎないように。冷静に楽に入るのが結果的にいいでしょう。最初の1kmはどうしても速くなりがちですが、あくまで21.1kmを大きく落とさずに走りきれるイメージを持てるペースでないと感じたら迷わず落とすべき。先はまだ長いです。
無理に貯金を作ろうとせず、目標ペースギリギリ、もしくはコースにも依りますが多少遅いくらいでも問題ないと思います。
序盤はまだペースも安定せずに集団も流動的なので、そこまで集団を気にする必要はないと思います。
5km~18km
いかに良い集団に入って楽できるかが重要な区間です。良い集団に入れなくても、前方から落ちてくる人もいるでしょうからうまくターゲットを切り替えつつ、少しでも前を追うイメージで走れたら楽ができると思います。
後半になるにつれ、ペースを維持するのに必要な努力感も増えていきますので、そうなったときに競り合う人が近くにいるだけでだいぶ違います。
10km過ぎから徐々にきつくなり、15kmくらいが精神的にも一番きついところだと思いますが、集団や前の目標の力を借りてなんとか耐えましょう。
ラスト3km
残り距離が少なくなれば普段の練習の距離からどれだけいけそうかイメージしやすいですから、持てる力を振り絞っていきましょう。前のきつそうな選手は全員抜くつもりで切り替えられればベスト。
まとめ
- ハーフ90分(1時間30分)切りはサブ3の前段階として達成しておきたいよ
- ハーフマラソンのレースペースはTペースが近いので、閾値走に重点を置いた練習が有効だと考えられるよ
- レースでは前半やや遅くてもいいので突っ込みすぎないのが重要だよ。
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