GarminのGPSウォッチはランナーの間で最も支持されているGPSウォッチです。多機能でカスタマイズ性も高く、ユーザのニーズに合わせて様々なモデルが用意されているのが人気の理由だと思います。
このGPSウォッチの機能にVO2maxの推定機能があります。この数値を見て、走力が上がった、下がったと一喜一憂されている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、GarminがどのようにVO2maxを推定しているのかを探っていきたいと思います。
私のGPSウォッチ遍歴
本題とはズレますが、私のGPSウォッチ遍歴について書きたいと思います。
最初はNike+ SportWatch GPSを使っていました。シンプルで使いやすかったのですが、いつの間にか廃盤になっておりました。値段も2万円弱くらいでリーズナブルだったと思います。
その次に買って今でも使っているのは、EPSONのWristable GPS SF810です。
5年前にクリスマスプレゼントとして妻に買ってもらいましたが、当時はまだ新しかった心拍測定機能付きでした。Nike+ SportWatch GPSでも胸部ベルトと連携して心拍数を測定できたのですが、毎回ベルトを付けるのも面倒で有効活用できているとは言えませんでした。なのでGPSウォッチだけで心拍数まで測定できるのは魅力的でした。
ただこのEPSONのGPSウォッチは、距離表示のないロードで必須のインターバルモードが若干使いづらい(ラップ区切りが自動で取られるのはいいが、直前のラップタイムがわからない)という欠点がありました。
また、そろそろ動作が怪しくなってきたのもあって、買い換えるとしたらGarminにしようと考えています。
本題:どのようにVO2maxを推定しているのか?
まず、VO2は酸素摂取量≒酸素消費量なので、正確に測定するには呼気を測定するしかないです。一方、走速度とVO2、心拍数はそれぞれほぼ比例関係にあることが知られています。
そのため、心拍測定機能付きのGPSウォッチなら常時測定できる走速度と心拍数を使ってVO2maxを推定しよう、というのが基本的な考え方です。
この技術はfirstbeatという会社が提供しているようで、Whitepaperにこの技術の概略が載っています。Whitepaperなので論文と違って技術的な部分はあまりちゃんと書かれておらず詳細な部分はないのですが、大まかなイメージは掴めたので手順をまとめたいと思います。
https://assets.firstbeat.com/firstbeat/uploads/2017/06/white_paper_VO2max_30.6.2017.pdf
手順1:走速度と心拍数のセットを集める
先程述べたように心拍数機能付きGPSウォッチなら走る速度と心拍数の組は簡単に取得できるのでそれをひたすら記録していきます。
手順2:信頼性の低いデータ(信号待ち、心拍計測エラー等)をフィルタリング
ただ、走り始めなどは心拍数の立ち上がりに時間がかかりますし、腕時計式の心拍数計は異常値を示すこともあります。そのため信号で止まっている、トンネルで速度が正確に計測できない、などの状態を検知してフィルタリングしているようです。
手順3:走速度と心拍数の関係をモデル化し、最大心拍時の走速度を推定
走速度と心拍数の関係は手順2まででわかりましたが、心拍数がどこまで上がるか(最大心拍数)についてはこれだけの情報ではわかりません。HRmaxに到達する強度がVO2maxの強度なので、心拍数を基準にする場合はHRmaxを知ることは必須となります。
VO2を直接測る場合はトレッドミル上を走れなくなるまで速度を上げていくのですが、Garminはぶっ倒れるまで走らなくてもVO2maxを推定していますよね。
つまり最大心拍数は実測値ではなく、推定値を用いています。最大心拍数は年齢から簡易的に計算される値を用いているようです。具体的にどのような式が使われているかは不明ですが、一番簡単なのは「220-年齢」というのがよく知られていますね。
この最大心拍数の推定値を用いて最大心拍数下の走速度vHRmax=vVO2maxを求めます。
手順4:vVO2maxからVO2maxを推定
これは実際にランナーを実験室に集めてVO2を測定し、走速度とVO2の関係グラフを独自に作成したようです。このあたりはWhitepaperにはちゃんと書かれていなくて若干推測が入るのですが、このグラフに手順3で求めたvVO2maxを代入することでVO2maxが求まる、という手順だと思われます。
それで、この推定値って本当に正しいの?
ここでVO2maxについて思い出してほしいのですが、VO2maxが異なる場合でもレースパフォーマンスが同じか逆転する場合があります。
これはランニングエコノミーの個人差で説明できますが、上記手順では結局測定に用いられたランナーの平均的なランニングエコノミーが用いられるため、実際に測定されるVO2maxとは大きく異なる可能性があります。
すなわちGarmin(firstbeat)が言うVO2maxはダニエルズ先生の提唱するVDOTとほぼ同じ意味合い、すなわち見かけ上の(平均的なランナーの)VO2maxであると言えます。
さらにGarminのVO2max導出手順で一つの大きな誤差要因だと思われるのが最大心拍数です。最大心拍数は個人差が大きく、特にランニング習慣があり心臓が日頃から鍛えられている方だと↑で挙げた簡易式よりも高い場合が多いと思います。
また、心拍数は気温や走行環境の影響も大きく受けます。特に気温が高いと涼しいときよりも心拍数は上がりやすくなるので、正確な推定はより難しくなります。GarminのVO2maxは、一定した走環境で心拍数が正確に測定されていることが前提なので、アップダウンが激しかったり風が強かったりする条件も誤差要因になると考えられます。
VDOTと比較したらどうなの?
VDOTはレースパフォーマンスから走力レベルを推定するものです。レースタイムからその運動が持続可能な%VO2maxを求め、レース速度と見かけ上のVO2、および%VO2maxから見かけ上のVO2max、すなわちVDOTを求めます。
風やアップダウン、気温が影響するのは共通ですが、心拍数という間接的なパラメータを挟まないので、その部分の個人差は軽減されると思います。
一方、GarminのVO2max推定値(VDOTと同様、本当のVO2maxではない)はレースではない普段のランニングから推定されるもので、心拍数という間接的なパラメータを挟むため誤差が大きくなると思います。自分の最大心拍数がある程度わかっていてGarminに直接指定できるなら(持ってないから知らないけどできるんですかね?)、この部分の誤差はやや軽減されると思われます。
上記WhitepaperではHRmaxの推定値と真の値が15ずれたら誤差がVO2maxの誤差が9%出ると書いていますね。HRmaxが正確なら誤差は5%程度に収まるようです。
Garminが推定するVO2maxが現在の実力よりも明らかに高い値を出す場合はHRmaxを高めに推定していて、逆の場合はHRmaxが低めに推定されている、とも言えると思います。
まとめると、GarminのVO2maxは普段の練習の心拍数から走力の変化を数値として確認できるのは便利だと思いますが、絶対値としての信頼度はやや欠けるのかな、という印象ですね。
VO2maxからどのようにレースタイムを予想しているのか?
GarminにはVO2max推定値からレースタイムを予想する機能もあります。これはどのように実現しているのでしょうか?
この問に関しては全力中年さんの記事が一つの答えだと思います。VO2maxをVDOTとしてダニエルズ計算機に入れたらほぼそのままの値が出た、という記事です。
走速度とVO2の関係式についてはいくつかのモデルがありますが、ここまで一致していることから実際はVDOTから等価タイムを求める式をほぼそのまま使っているものと考えられます。先程のWhitepaperでも”Race time prediction”の節でダニエルズのVDOTテーブルを出していますし。
まとめ
- GarminのVO2maxは心拍数をベースにして「ランナーの平均的な」VO2maxを推定しているので個人のVO2maxとは差が出るはずだよ
- 導出の過程で必要なHRmaxも年齢から一律に推定されているので誤差が大きい可能性があるよ
- 普段の練習から走力の変化がわかるという点では使えるかもしれないけど、実際の走力とはずれているという話を聞くことも多いので、過剰に信じないほうがいいよ
結局レースでどれだけ走れるかが重要なので、最後はダニエルズ先生のいつもの格言で締めたいと思います。
トレーニングスピードを上げるべきだと言うランナーに対する私の答えはいつもこうだ。”その力があることを、レースで証明しろ”。
ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第3版より
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