マラソンはイーブンペースで走りきれるのが理想だと誰もが理解していると思いますが、後半で失速してしまう方も多いと思います。私も第39回つくばマラソンでやってしまいました。
以前は実力に見合った目標を設定していたので、後半落とさずネガティブスプリットで走れたレースも多かったのですが、最近は背伸びした目標を設定しているのでギリギリのペースを攻めた結果オーバーペースで後半失速というレースが続いています。
オーバーペースが後半の失速を招くというのは多くの方が経験されているとは思うのですが、生理学的には体内でどのような変化が起きているのでしょうか。
マラソンの疲労メカニズムは完全には解明されていないようなのですが、その研究の一部を紹介します。
検証方法
40人のアマチュアランナー(男性34人、女性6人)が被験者で、実際にマラソンを走ってもらってその前後での様々な変化を測定し、何が失速の原因となったかを明らかにするアプローチです。
マラソン後半の失速の原因として、高体温、脱水、筋繊維の損傷が関係するとの仮説のもと、以下の項目を測定します。
- 体内の温度(高体温)
- 体重(脱水)
- 筋出力(筋繊維損傷)
- 血液成分(筋繊維損傷)
被験者達のペースは、最初の5kmは3.5m/sでしたが、最後の5kmでは2.9m/sまで低下したようです。その低下率は平均16%。そのうちペース低下率が15%未満の22名と、15%以上の18名の2グループに分け、上記測定項目を各グループ間で比較しました。
結果
体内温度の比較
この項目は2つのグループ間では差がありませんでした。走速度と体内温度には相関関係があるようですが、失速については高体温の影響ではないようです。
体重と脱水レベル
レース前後で全ての被験者は体重を減らし、平均で-1.8kgだったようです。一方、脱水レベルは2つのグループ間で共通で、ランニング速度との相関は見られませんでした。
脚と腕の筋出力
ジャンプ力の比較では、ペースを維持したグループではレース前後で-23%の低下、ペースを落としたグループでは同-30%と有意な差がありました。これはイメージ通りですね。
ちなみにマラソン中にほとんど使っていないと思われる握力についても測定した結果、握力も大幅に低下していたようです。
血液成分
ミオグロビン、乳酸脱水酵素、クレアチンキナーゼが失速したグループで有意に増加したようです。これらの成分は筋肉に多く含まれている成分で、筋繊維の損傷度合いが高いことを示しています。
前述の筋出力の比較とも符合しますね。
結論
マラソン後半の失速は筋繊維の損傷と強い相関があります。つまり一定ペースで走れたグループはより筋繊維の損傷が少なかったようです。
何が筋繊維の損傷を起こすのか?
ペースを維持できた人と維持できなかった人の差が筋繊維の損傷の差だというのはわかりました。では何がこの差を引き起こすのでしょうか。
マラソン中の筋繊維の損傷については2つの説があるようです。1つはメカニカル要因、もう1つは代謝的要因です。
メカニカル要因は筋肉に強い負荷がかかり続けて損傷するというものだと思います。
代謝的要因は、解糖系代謝が強く働く運動強度を長時間続けることによって糖が不足し、筋グリコーゲンも枯渇した状態で運動を続けることによって筋繊維が損傷するというメカニズムだと思われます。
今回、走動作にはほぼ影響しないであろう握力もレース後に下がったという結果が得られているので代謝的要因が筋繊維破壊の原因になっている気もしますが、これらの説についてはまだ元文献が読めてないので、読めたら別記事でまとめたいと思います。
どちらもオーバーペースが間接的な原因なので、失速を防ぐには適正ペースで走るということに尽きるかもしれません。それが難しいんですが。
なおオーバーペースで解糖系代謝が働きすぎ、補給も足りないと低血糖(ハンガーノック)を引き起こしますが、経験された方ならわかると思いますがここまでいくと脚が動かないというよりは体に力が入らなくなり更に失速具合が増します。
まとめ
- マラソン後半の失速は筋繊維の損傷が原因の可能性が高いよ
- 筋繊維損傷の原因についてはメカニカル要因説と代謝的要因説の2つがあるよ
- どちらもオーバーペースがトリガーとなると思われるので、自分の適性ペースをしっかり守ることが後半失速しないために重要だよ
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