目標レースが近づいてくると誰もが当日の天候を気にすると思います。マラソンは天候の影響が大きいので、誰しも走りやすいコンディションで走りたいはず。どんなに完璧に調整ができていたとしても、天候の影響だけで目標達成を逃すことも十分にありえます。
特に影響するものは気温、風あたりだと思いますが、日照や雨、湿度などの影響もあるでしょう。
今回は、ストックホルムマラソン(初夏に開催)を走った様々なレベルのランナー(2時間11分から5時間)がこれら天候の影響をどの程度受けるかを統計的に分析した文献があったのでその紹介をします。
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分析方法
1980年~2008年までのストックホルムマラソンの結果について、様々なレベルのランナーでグループ分けをしました。具体的には1位~3位、1位~250位、1001位~1250位、4001位~4250位の4つのカテゴリに分け、それぞれの年の平均、標準偏差などを分析しました。
また、これらの年の気象データを集め、気象パラメータとマラソンフィニッシュタイムの関係を分析しました。フィニッシュタイムについては年による差やランナーのレベルの変化などを含めるために回帰分析をしたフィニッシングタイムアノマリー(FTA)を用います。
DNF割合と気象パラメータの相関
気温、相対湿度、比湿度、風速、日射量、長波放射の6つのパラメータについて、DNFの割合との相関を調べたのが以下です。
明らかに正の相関があるのがやはり気温ですね。日照や比湿も気温ほどではないですが正相関。一方、相対湿度は負相関で、高いほどDNFの割合が下がるという傾向があるようです。意外なのは風速の影響。ほぼ無相関ですね。風速8m/sとかなりの強風の年もあったようですが、それでもDNFへの影響は少なかったようです。
気温の影響が特に高いのは、ストックホルムマラソンが6月の初夏に行われているという点との影響も大きいと思います。
フィニッシュタイムと気象パラメータの相関
先ほどと同じように気温、相対湿度、比湿度、風速、日射量、長波放射の6つのパラメータについて、フィニッシュタイムと各パラメータの相関を調べたのが以下のグラフです。緑が1位-3位、赤が1位-250位、青が1001位-1250位、黒が4001位-4250位をそれぞれ表しています。
男性
女性
考察
こちらもDNF割合とほぼ同じ傾向が得られました。気温の影響がやはり最も高く、25℃にもなると遅いカテゴリでは10分以上もの差が出てきています。また、興味深いのが、4つのカテゴリで比較すると遅いカテゴリほど気象条件の影響を受けやすいですね。
著者らはこの原因について、遅いカテゴリの方が体重が重く体温が上がりやすいため、走行速度を落とさざるを得なかった、と分析しています。
また、男女間で比較すると男性よりも女性の方が悪天候(主に高温)の影響を受けなかったことを示唆しています。これは女性の方が体重辺りの表面積が大きく熱を逃しやすいから、と著者らは考察しています。
風についてですが、風が一定な場合の公認マラソンなら追い風向かい風ほぼ等しく受け、向かい風のマイナスの方が追い風のプラスよりも大きな影響を受けるはずです。一方、風が強ければ体温が逃しやすくなり、気温上昇のマイナスを相殺しているため、全体としては無相関になっているのだと思われます。
おそらく低温で風だけの影響を考えるとかなりの正相関があるんじゃないかと思われます。
雨の影響
これら以外にも雨の影響についても分析しており、雨が降ったレースを1、降らなかったレースを0とすると、フィニッシュタイムと負の相関があったようです。つまり雨が降った方がタイムが良くなるという傾向ですね。
初夏のマラソンですから、これも風の影響と同じで、雨によって体温が逃しやすくなったためだと思われます。
まとめ
- 速いランナーよりも遅いランナーの方が天候(特に高温)の影響を受けやすいよ
- 気温の影響が最も相関があるけど、女性の方が影響を受けにくいよ
- 雨、風とも不利な気候だけど体温を下げる効果があるから初夏のマラソンではそれほどタイムに影響はないよ。ただ冬マラソンでの影響はまた違ってくると思われるよ。
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