【論文紹介】マラソンの栄養戦略

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レース準備関連
出典:https://www.runnersworld.com/
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マラソンのレース前にカーボローディングをされる方も多いと思います。私も初マラソンのときからやっていますが、とりあえず炭水化物を摂りまくればいいんでしょ、的な感じで無計画にやっていたと思います。

その後いろいろ試行錯誤しつつ自分の体に合う方法を模索してきましたが、コレだ!という方法は未だ確立できておりません。というわけでスポーツ科学的にエビデンスのあるレース前の栄養戦略について以下の文献で勉強したので紹介します。

Nutrition Strategies for the Marathon - Sports Medicine
Muscle glycogen provides a key fuel for training and racing a marathon. Carbohydrate ‘loading’ can enhance marathon performance by allowing the competitor to ru...
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カーボローディング

目的

人間の代謝系統として大きく分けて解糖系と酸化系があるのはご存知かと思います。解糖系はすぐにエネルギーに変換出来ますが、グリコーゲンとして蓄えられる量は限りがあり、ほとんどの場合マラソンを走り切るだけのエネルギーを賄うことはできません。

酸化系は脂肪を燃焼させてエネルギーに変換し、脂肪1kgにつき7000kcalという膨大なエネルギーを蓄えていますが、単位時間あたりにエネルギーに変換できる量は限られており効率が悪いです。

マラソンペースはこの解糖系代謝が優位に働くペースで走ることになりますから、グリコーゲンをいかに貯めるかが重要です。そのために編み出された手法がカーボローディングです。

カーボローディングの歴史

1960年代後半の北欧の研究[1]がカーボローディングの始まりのようです。この研究では、7日間モデルを提唱しており、前半の3~4日を低カーボ食でグリコーゲンを枯渇させ、後半の3~4日を高カーボ食でグリコーゲンを超貯蔵するという手法です。いわゆる古典的手法として紹介されている場合が多いでしょうか。

この手法は1969年のヨーロッパマラソン王者のRon Hill選手が最初に取り入れ、1970~80年代のランニングブームで市民ランナーにも広がっていきました。

その後、この手法についても研究され、前半の枯渇期は不要で最後の3日間だけ高カーボ食を取るだけで十分とする手法[2]が発表されました。

また別の研究[3]では高負荷運動後に休息と高カーボ食を数日続け、1日と3日後で体内のグリコーゲン量を測定したところグリコーゲンのレベルは1日も3日もそれほど変わらなかったそうです。

今ではレース前の36〜48時間以内に10~12g/体重kg/日の炭水化物を取るのが主流のようです。1.5日前から2日前で十分ということで、日曜がレースの場合は金曜の昼ぐらいから炭水化物を増やすので十分そうですね。

男女による違い

これまでの研究はほとんど男性を対象としていて、女性にも当てはまるとしている研究が多いようですが、女性は筋グリコーゲンの貯蓄が男性よりも少なくカーボローディングの効果は薄いという研究もあるようです[4]

マラソンパフォーマンスへの影響

カーボローディングはあくまで筋グリコーゲンを使い切るような長時間の有酸素運動に効果があるため、ハーフマラソンまでは不要のようです。25km以上で効果があるとする研究があります[4]。

また、カーボローディングによって巡航速度が上がるわけではなく、あくまで後半の失速を防ぐという効果になります。特に後半の5kmで顕著な差が出るという結果もあります[5]。

ファットアダプテーション

目的

エネルギー供給元として、糖よりも脂肪の方がより多くのエネルギーを蓄えていますが、脂肪は燃えにくいためなかなか効率よくエネルギーを供給できないのは先程述べた通りです。

グリコーゲンを節約して脂肪酸化能力を高める方法として、低炭水化物(2.5g/体重kg/日)と高脂肪(全エネルギーのうち65-70%)の食事を5日続けるという手法があります。これが脂肪適応:ファットアダプテーションです。ファットローディングという言い方もされるかもしれません。

マラソンパフォーマンスへの影響

ただし、この手法は4週間以上続けると健康上のリスクを引き起こす可能性があるという報告[6]があります。

このファットアダプテーションとカーボローディングが合わされば最強の栄養戦略だと思われますが、実際はそううまく行かないようです。

また、ファットアダプテーションのグリコーゲン節約効果については、「グリコーゲン障害」の可能性があるそうです[6]。つまりグリコーゲンの分解自体が遅くなってしまい、解糖系の高出力が必要な場面でもエネルギー供給ができず、坂を登ったりスパートをかけたりという能力が落ちる可能性があります。そのため、マラソンランナーにとってこのファットアダプテーションは実施すべきではないとのことです。

トレーニングとグリコーゲン

マラソンランナーの高ボリュームトレーニングでは、トレーニング間の食事で7〜12 g / kg /日の炭水化物を摂ってしっかりグリコーゲンを回復する必要があります[7]。

ただし、低カーボ状態でのトレーニングが効果を増大させる可能性があるという研究結果[8]もあります。

減量期と高ボリューム期をしっかり分けて効果的に食事量を調整したいですね。

まとめ

  • カーボローディングは枯渇期なしでレースの36〜48時間にわたって10〜12 g / kg /日の炭水化物を摂取するのが現在の主流だよ
  • ファットアダプテーションは解糖系代謝能力自体が落ちて高い出力を出せなくなる可能性があるのでマラソンにはやらない方がいいよ
  • マラソン練習では減量期と高ボリューム期をしっかり分けて栄養戦略を立てたいよ
参考文献

[1.] Ahlborg G, Bergstrom J, Brohult J. Human muscle glycogen content and capacity for prolonged exercise after difference diets. Forsvarsmedicin 1967; 3: 85-99
[2.] Sherman WM, Costill DL, Fink WJ, et al. Effect of exercise-diet manipulation on muscle glycogen and its subsequent utilisation during performance. Int J Sports Med 1981; 2: 114-8
[3.] Bussau VA, Fairchild TJ, Rao A, et al. Carbohydrate loading in human muscle: an improved 1 day protocol. Eur J Appl Physiol 2002; 87: 290-5
[4.] Burke L. Middle and long-distance running. In: Practical sports nutrition. Champaign (IL): Human Kinetics, 2007: 109-139
[5.] Karlsson J, Saltin B. Diet, muscle glycogen, and endurance performance. J Appl Physiol 1971; 31: 203-6
[6.] Burke LM, Kiens B. “Fat adaptation” for athletic performance: the nail in the coffin? J Appl Physiol 2006; 100 (1): 7-8
[7.] Burke LM, Kiens B, Ivy JL. Carbohydrates and fat for training and recovery. J Sports Sci 2004; 22: 15-30
[8.] Hansen AK, Fischer CP, Plomgaard P, et al. Skeletal muscle adaptation: training twice every second day vs training once daily. J Appl Physiol 2005; 98: 93-9

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