最近のGPSウォッチはストライドやピッチの情報が取れるので、これらの数値を改善しようとストライドを伸ばしてみたりピッチを速める調整をしたことがある方は多いと思います。
ある研究では、自然なピッチ数よりも少し速いピッチを採用することでランニングエコノミーが改善し、脚への衝撃が軽減する可能性が示された一方、別の研究ではピッチやストライドはランナー固有であり、意図的に変更しようとするとランニングエコノミーが低下するという報告もあります。
普段走り慣れている動作の場合、特に意識しなくてもストライドやピッチは毎回かなり近い値にある場合がほとんどだと思いますが、意図的に動作を変えようとした場合、どうしても最初のうちは新しい動きに意識が集中します。
そのため動作を変えようとしてランニングエコノミーが低下するのは、新しい動作について意識的に動かそうとするためにスムーズな動きができていないことが原因の可能性があります。
しかし、新たな動きを学習していくうちに徐々に無意識で新しい動作ができるようになり、最終的にはその新しい動きがその人に合っているならばランニングエコノミーは改善するはず。
今回はランニング動作への介入について脳波を測定してどのような傾向があるかを調べた文献について紹介します。
介入方法
3人の男性と10人の女性ランナーが試験に参加。
被験者たちはまず各々で決めたペースで5分間トレッドミルを走ったあと、ピッチや脳波、足と地面の間の力の変化を60秒測定します。その後、測定されたピッチを5-10%増やした新たな動作で同様の測定を行います。
初回測定後、ガーミンを渡されて新しい動作での3マイル以上のランニングを8回行い、目標ピッチでの動作を習得します。このときは走行中にリアルタイムにピットを確認します。
その後、1ヶ月間の通常ランニングを行いますがこのときは走っているときにピッチをリアルタイムで確認せず、走り終わった後に確認するだけです。
1ヶ月経ったら再び実験室で初回と同じ測定を行い、介入による変化を確認します。
結果
動作の変化について、介入前のピッチが平均166だったのが介入後に181になり、速度は一定のためストライドは1.01mから0.93mに減少しました。
脳波の変化についてベータ波やガンマ波を前後左右の4点で比較した結果が以下。Baselineが初回測定時、NewGaitが目標ピッチでの初回測定時、Post Trainingが習得後に測定した値です。
新しい動作の習得前には前頭前野部の脳の活動が大幅に増加していますが、動作の習得後は通常状態に戻っています。
これはすなわち、新しい動作を習得している間は脳に負荷がかかっており、そのためランニングエコノミーが低下している可能性があります。
一方、習得後ではベースラインと同様に無意識で走れており、新しい動作が合っている場合はランニングエコノミーが改善している可能性があります。
感想
ランニングにおける介入での脳波の変化を測定するという面白い研究でした。ランニング動作を意図的に変えてランニングエコノミーが低下するという研究は多いと思いますが、脳の学習コストや、学習後の評価まで行っている文献は少ない印象です。
ただこの研究も直接的にランニングエコノミーの変化を測定しているわけではない(ピッチを増加させている目的は足への衝撃を減らせるかどうかの確認)ので、実際にランニングエコノミーがどう変わるかについてはこれだけではわからないですね。
ピッチやストライドを変えようとして、その新しい動作が本当にその人に合う動きなら改善する可能性はあるが、無理にストライドを伸ばそうとしたり、必要以上にピッチを上げようとするならばやはり体に無理が生じ、結果的にランニングエコノミーは下がるのかなと想像します。
まとめ
- ピッチやストライドを意識的に変えようとするとランニングエコノミーが低下するという報告があるよ
- 新しい動作習得中は脳のコストが増加するから一時的にREが悪化するけど、習得後は無意識でできるようになるのでその動作が理にかなっている場合はREも改善する可能性があるよ
- 必要以上にピッチやストライドを変えようとする場合は、無意識でできるようになったとしても体に無理が生じてREが低下するかもしれないよ
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