ヴェイパーフライ4%はタイムが4%速くなるわけではない

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厚底シューズ
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ヴェイパーフライ4%でタイムが4%速くなると勘違いしている方も多いと感じているのでこの問題について取り上げたいと思います。

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ヴェイパーフライによる記録ラッシュ

みなさん御存知の通り、Nikeヴェイパーフライ4%、その後継であるヴェイパーフライNext%が長距離界を席巻しています。ヴェイパーフライ4%が登場して以降、マラソンの日本記録は2回塗り替えられ、世界記録も1分以上塗り替えられ、それまで1回しかなかった2時間3分以内の好記録が5回も出ています。

その全てでヴェイパーフライ4%およびNext%が使用されています。また先日ケニアのカムウォロル選手がハーフマラソン58分01秒という世界記録を出しましたが、これもヴェイパーフライNext%です。ランナー自体の進化を否定するつもりはありませんが、ここまで好記録が続出するのはシューズの力が大きいのは間違いないでしょう。

私も去年の9月に店頭に並んで抽選で入手し、5000m記録会当日に初めて履きましたが、明らかにスピードが楽に出る感覚で、いつも通りの感覚でペースを刻んでいたら4000m地点でもかなり脚が余っていて、慌ててペースを上げるという感じでした。そのレースはPBでしたが、これはシューズの力なのか、自分の実力が上がったのかなんとも言えない気持ちになりました。

ヴェイパーフライの効果を検証した論文

このように圧倒的な成績を残しているヴェイパーフライ4%およびNext%ですが、その効果を検証した論文がSports Medicineというジャーナルに掲載されています。

A Comparison of the Energetic Cost of Running in Marathon Racing Shoes - Sports Medicine
Background Reducing the energetic cost of running seems the most feasible path to a sub-2-hour marathon. Footwear mass, cushioning, and bending stiffness each a...

この論文の日本語による解説はwiredの記事が素晴らしいのでここでは詳細な解説は省きます。

ナイキのシューズ「VAPORFLY 4%」を履けば、本当にマラソンで早く走れる? 研究結果は「イエス」だった
ナイキがマラソンランナーのために開発したと謳うシューズ「ZOOM VAPORFLY 4%」。そのテクノロジーによって、ランナーは本当に早く走れるのか──。コロラド大学の研究結果は「イエス」、つまり本当に早く走れるというのだ。いったいどのようなメカニズムなのか、そして誰もが同じ結果を出せるのか。『WIRED』US版は、答...

この論文に書かれていることは

  • 18人のエリートランナー(10km31分以内)がヴェイパーフライ4%のプロトタイプ、adizero adios boost 2、Nike Zoom Streak 6の3種類のシューズを履いてトレッドミルを3種類(14km, 16km, 18km)のスピードで走行
  • Nike Zoom Streak 6と比較して平均してランニングエコノミーが4%低下した
  • 各ランナーの改善幅は1%~6%までバラツキはあるが、全員改善したのは驚くべき成果
  • 理論上はタイムに換算すると平均3.4%の改善
  • フォアフット/ミッドフットよりもリアフットの方がやや改善幅は大きい

ということです。「トレッドミルで走ったときにZoom Streak 6と比較してランニングエコノミーが平均で4%低下」という結論であって、この結果から理論的には速度は3.4%改善する、と締めくくっています。ちなみに引き合いに出されてかわいそうなZoom Streak 6ですが、キプチョゲはこのシューズで2時間4分台で走っているのでいいシューズですよ。

ランニングエコノミーの改善と速度の関係

ランニングエコノミーが4%改善して、速度が3.4%速くなるってどういうことなの?と疑問を持たれるかもしれませんが、ランニングエコノミーはある走速度に対する酸素摂取量(VO2)で評価するのが一般的です。つまりVO2maxと同じ単位(ml O2/kg/分)なわけですね。これが4%改善するということは、ダニエルズ先生のVDOTを説明するのに何度も出てきたランニング速度とVO2のグラフで傾きが4%減ることに相当します。その上でマラソンを走れるVO2 が変わらないなら、純粋に速度増加に繋がります。

この関係が完全に1次式ならランニングエコノミーが4%改善すればタイムも4%改善するわけですが、ダニエルズ先生のVDOT計算式では2次式のモデル、またヴェイパーフライの論文ではケニアのエリートランナーに合わせた3次式のモデルなため、速度が3.4%の改善という結果になります。ちなみに私もVDOTの式で計算してみましたが、速度が3.3%の改善という結果でした。

実際はそこまで改善しない

さて、この速度の改善はあくまで理論的な話です。速度が3.4%改善するとしたら、2時間4分台の選手が計算上はサブ2を達成できることになりますが、今のところそこまで飛躍的な記録の向上を遂げた選手はいません。この点については、まだ解明できていない未知の点が残っているようですが、一説にはマラソンの後半は腱が伸びるなどの影響でエネルギー消費量が増え、ヴェイパーフライの特性もまた変わってきているのではないか、という説があります。

ランニングエコノミーの改善もトレッドミル上では平均4%改善するけどロードではまた違った特性になる可能性もありますね。

あとたまにヴェイパーフライはフォアフットじゃないと効果ない、と言う方もいますが論文では明らかにリアフットでも効果がありますね。むしろリアフットの方がランニングエコノミー改善幅は大きいくらいですので、リアフットの人の方が効果が大きい、とすら言えます。

ちなみに全世界記録保持者のデニス・キメット選手はadizero adios boost 2(日本国内ではadizero japan boost 2)で世界記録を出しましたが、キプチョゲ選手はヴェイパーフライを履いても彼の記録を1.07%しか更新していない、とも言えるので、彼の全盛期にヴェイパーフライを履いていれば今のキプチョゲ選手の世界記録よりもすごい記録を打ち立てたのではないか、という説もあります。

そんなキメット選手、元々は農家で趣味で走っていたのをスカウトされて本格的に走り出し、その6年後に世界記録を出したというバケモノです。

https://www.asahi.com/articles/ASHD346FVHD3TIPE01C.html

キメット選手は世界記録以降は故障が続き、成績は芳しくないです。今年のベルリンマラソンでのベケレ選手のようにもう一花咲かせてほしいですね。

そして10/12(土)はいよいよINEOS 1:59チャレンジです。今のところ予定通り開催されるようです。夢のサブ2達成なるのか、ライブ配信で見守りたいと思います。

まとめ

  • ヴェイパーフライはトレッドミルで走った状況で平均4%のランニングエコノミーを改善するよ
  • 理論上は速度換算で3.4%改善するけど、実際はそこまで改善していないのでまだ未知の要因があるよ
  • キメット選手は農家から競技に転向して6年で世界記録を出しちゃった(しかもJapan boostで)ヤバイやつ

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