以前、Nike ヴェイパーフライ 4%は実験室レベルでランニングエコノミーを平均4%改善することを紹介しました。
ただヴェイパーフライはロード用に開発されたシューズで、エリート選手においてはトラックレースではスパイクを使うことが多いです。
ただ設楽悠太選手や新谷仁美選手など、一部のアスリートはトラックレースでもヴェイパーフライを着用しています。海外のアスリートも同様にヴェイパーを好む選手がいます。
またリオ五輪の女子トライアスロンで金メダルを獲得し、その後出産を経てマラソンに転向したグウェン・ジョーゲンセン選手など一部選手は、ヴェイパーフライにスパイクプレートを付けたカスタム品を使っていたりもします。
ではトラックレースではヴェイパーフライとスパイク、どちらの方が速く走れるのでしょうか?
以前紹介した論文でもヴェイパーフライと比較したのはZoom Streak 6とadizero japan 2のみで、スパイクとは比較していません。
その疑問に答えるため、この記事ではヴェイパーフライとスパイクの差について私の体感、および実際にエリートランナーのランニングエコノミーを比較した論文について紹介します。
長距離用スパイクについて市民ランナーの感想
陸上競技経験のない市民ランナーのほとんどはスパイクシューズとは無縁かと思います。私も5000mに取り組みだした頃はマラソンシューズで走っていましたし特に不満もなかったです。
ただ一流選手はみんなスパイク履いているし、どんなものか試してみたかったので16’30″切りを狙っていた時期にNike Zoom Matumbo 3を購入しました。このスパイクはロンドン五輪のトラック競技で2冠を達成したファラー選手など、多くのアスリートが着用していたモデルですね。
まず第一印象はとにかく軽い。100gちょっとくらいしかありません。アウトソールもペラペラなので着地の衝撃もダイレクトに来ます。相当筋力がないと脚が持たなそうでした。
とりあえずレース(東海大記録会)で1回使いましたが16’35″と微妙。ただかなり蒸し暑さがあった日だったので、条件がよければ16’30″を切って当時のPBまでは出せたと思っています。
その次のレースではヴェイパーフライ4% FKが入手できたのでそちらを試してみたら断然ヴェイパーフライの方が楽にスピードが出ました。
というわけでこのレベルの陸上競技未経験者の視点では、スパイクよりも断然ヴェイパーの方が楽にスピードが出せるという感触です。
なお、このスパイクはその後400mなど短距離のレペティション用になりました。
論文での比較
では、私よりも遥かに走力が上のエリートランナーにとってはどうなのでしょうか?その疑問について研究したのが以下の論文です。
この論文は24人のエリートランナー(男性は5000m15分、10000m30分前後、女性は5000m17分前後、10000m35分前後)について、トレッドミル上で5分走行したときのVO2を4通りのシューズ、3通りの速度で比較し、以前の論文の結果を追試するとともに、ヴェイパーフライとスパイクのランニングエコノミーを比較した論文です。
比較対象
以下の4つのシューズについて比較しています。
- Nike Zoom Matumbo 3(NZM)
- adizero japan boost 3(ADI)
- ヴェイパーフライ4%に重りをのせてADIと同じ重さにしたもの(NVF+)
- ヴェイパーフライ4%(NVF)
実験結果
ヴェイパーフライはマトゥンボ3と比較して平均2.6%、japan boost 3と比較して平均4.2%のランニングエコノミー改善が見られました。
ランニングエコノミーが2.6%改善すると、走速度は理論上2.27%向上するはずですが、実際に被験者が何名かNVFを履いてレースに出たところ1.9%しか改善しなかったようです。
ただし、これらの選手のトレーニングによる速度向上効果も含まれているので、シューズの違いだけでは説明できずあくまで参考値ですね。
またヴェイパーフライをわざと重くしたもの(NVF+)とjapan boost 3を比較しても2.9%の改善が見られたとのことです。これは軽さ以外の部分でもエコノミーの改善幅が大きいことを示唆しています。
最近の動向
この研究では先程紹介したヴェイパーフライのカスタムスパイクとの比較は出てきていないので、このシューズとの比較も気になりますね。
また、先日のドーハ世界陸上では、ヴェイパーフライの技術をスパイクに応用したシューズがトラック競技で好成績を収めています。トラック用のヴェイパーフライみたいなものだと思うので、今後はトラック競技でロード用のヴェイパーフライを履く選手は減るかもしれませんね。
まとめ
- 長距離用スパイクはめっちゃ軽いけどペラペラなので、陸上競技経験のない市民ランナーが使いこなすには相当な筋力が必要だよ
- エリートランナーレベルでも、スパイクよりヴェイパーフライのほうがランニングエコノミーが平均2.6%向上するという研究結果があるよ
- Nikeのプロトタイプがトラック用のヴェイパーみたいなシューズなので、今後はトラックもこのシューズ一強になる可能性があるよ
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