日本時間の2月6日未明、Nikeがプレスリリースを打ち「 Nike Air Zoom Alphafly Next% 」を正式に発表しました。
世界陸連の新シューズ規定発表から1週間も経っておらず、また先週の時点では多くのメディアが「アルファフライ使用禁止」と報道していたので驚かれた方も多かったのではないでしょうか。
この記事ではそんなアルファフライのデビューから東京マラソンや東京五輪、全米のオリンピック予選でも使用されるのが確実となった現在の状況までを振り返ります。
アルファフライのデビュー(2019年10月)
アルファフライが初めて確認されたのは2019/10/12に行われた「INEOS 1:59チャレンジ」が近くなってから。このイベントでキプチョゲはサブ2を達成するわけですが、「Breaking 2」のときもヴェイパーフライのプロトタイプをデビューさせたように、このイベントでも何か新しいシューズを履くのかと注目されていました。
そしてイベント直前になってキプチョゲが履いているのが確認されたのがアルファフライでした。
INEOS 1:59ではペーサーは全員ヴェイパーフライNext%のピンクで、キプチョゲ1人だけこのアルファフライを履いていてとても目立ちましたね。
当時書いた記事はこちら。
アルファフライの構造予想(2019年10月)
キプチョゲがアルファフライを履いてサブ2を達成し、一部のシューズマニアはこのシューズの分析を始めました。まだ発売も公式発表もしていないシューズですから、Nike内部の情報が漏れない限り正確な情報は何もないのですが、社外に公開される情報として参考になるのが特許。
アルファフライの形状から関連した特許を探し出し、その構造を予想したのです。その分析記事がこちらです。
この特許には確かにカーボンプレートが3枚という記述があります。この記事を元にこんな画像も作られ、これらが独り歩きをしてアルファフライ=カーボン3枚のバネ構造というイメージが定着しました。
ただ特許を書いたり読んだことがある方ならわかると思いますが、実際にその機能や構造/構成が使われるかどうかにかかわらず特許の範囲を広めに主張しておくために「~であってもよい」という表現が多用されます。そのため、必ずしも3枚使っていなくてもこの特許の請求範囲内であると判断されれば十分に権利を主張できると思われます。
アルファフライの性能とリリース時期の予想(2019年12月)
キプチョゲがINEOS 1:59でアルファフライを履いたあと、レースで履く選手は誰もいませんでした。そのため、新しい情報は何もない状態。
また、世界陸連がヴェイパーフライを始めとするスーパーシューズに対するワーキンググループを立ち上げており、このアルファフライはヴェイパーフライ肯定派の人でもやりすぎと言う反応も多く見られ、規制対象になるという見方は多かったです。
このワーキンググループの結論は当初2019年中に出るだろうと予想されていましたが、延期されるという報道があり年末を迎えました。そしてその年末になってフリーランスのスポーツジャーナリスト・Cathal Dennehy氏が書いた記事がアイルランドのIndependent紙に掲載され、一部アルファフライの情報がアップデートされていました。
この記事でのアルファフライの情報は市販品は2020年4月下旬に発売されるかもしれないということと、関係者の話ではそのランニングエコノミー改善率は8%近くにもなるという2点。
ヴェイパーフライの4%という数字でもかなりのもので、マラソン3時間5~6分の人がサブ3できるぐらいの改善率なのですが、その倍近くということでいかに壊れた数字かがわかります。
参考までにアルファフライでRE8%の恩恵をフルに受けられる人なら、比較対象の0%のシューズでマラソンが3時間12分くらいの人でもサブ3を達成できる可能性があるというほどの恩恵です。
アルファフライがNike契約選手に広く配布されているという噂(2020年1月)
年が明けて1月に入り、15日には英DailyMail紙による「ヴェイパーフライBAN報道」があって日本でも本格的にシューズ問題が報道されるようになりました。
一方その頃、アルファフライはケニアのイテンやNikeの本拠地のオレゴン州ポートランドを中心にNike契約選手たちに広く配布され試用されていたようです。
上の画像は左がNext%、右の画像がアルファフライ。その分厚さが際立っていますし、この画像を見る限りはミッドソールの厚さは40mm以上あるように見えます(左のNext%は36mm)。
また、別の写真によってはもっとミッドソール厚が薄く見えるものがあったりで、いろんなバージョンが試されていたと噂されています。
世界陸連の新シューズ規定発表(2020年1月31日)
そして迎えた新しいシューズ規定発表の日。追加されたいくつかのルールは、当時広く言われていたアルファフライの特徴を狙い撃ちしたかのようなルールで、アルファフライのBANを狙った規定だと当初は考えられていました。
- ミッドソール厚は40mmまで(アルファフライは45mmと言われていた)
- カーボンプレートは複数枚を重ねてはいけない(前述の通り3枚重ねていると思われていた)
日本のみならず世界の報道を見てもAlphaflyはBANという論調が目立ちます。
一方、SUSHI MANさんを始め一部識者はアルファフライはまだ死んでないという主張をしていました。
「アルファフライ禁止」と言っている人の発信は推測である。彼らはアルファフライを手に取っていないし、アルファフライの実際の寸法を知らない。
また、この記事でもプレート3枚の分析は間違っていて、今のバージョンでは1枚しかないと書かれています。ミッドソール厚についてもいろんなバージョンを試しており問題ではないとしています。
そしてアルファフライ発表へ(現地時間2020年2月5日)
まずプレスリリースで公表され、その後Runner’s World誌が記事を書いています。こちらの記事はプレスリリースで書かれていない情報もあり、Nike関係者から直接リークがあったのでしょう。
この記事によればUSサイズ8.5(日本26.0cm)でミッドソール厚は39.5mm。プレートも当然1枚。またUS向けの発売は全米オリンピック予選がある2月29日にNikePlusで数量限定販売するようです。
日本発売はおそらく東京マラソン当日でしょうか。
価格は未定ですが、この記事によればNext%とあまり変わらないんじゃないかと予想されています。Runner’s World誌は数週間以内に実物を入手して検証をしていくそうです。
なぜ新規約発表から1週間以内にプレスリリースできたか?
あまりのスピードの早さや制限ギリギリなこともあってやいろいろ憶測が飛び交っていますが、試用段階で様々なバージョンが試されていたという情報もあり、普通に考えればその中から最終的なルールに適合して一番性能がいい版をリリースした、と考えるのが普通でしょう。
ブルックス以外の他のメーカーはリリース日を早めるのに苦労していると思われますが、それより先に手を打つことでさらにリードを広げ、全米トライアルや東京マラソンでのPRも絶大なことが予想されますから見事としか言いようがありません。
東京マラソンや全米五輪予選はどうなるのか?
Nike契約の選手達には直接アルファフライが供給されるでしょうから当然アルファフライを履いてこれらのレースに臨むでしょう。一方、非Nike契約の選手たちですが、プロトタイプルール施行前ですしレース当日に数量限定(おそらくかなり少量)のオンライン販売ですから、実質レースで履くことは不可能でしょう。
Next%との使用感の比較でも明らかに反発が強くなったという意見が多いようですから、明らかに道具に差がある状態でレースに臨まなければいけない、そしてそのレースに競技人生がかかっていることを考えたらとても平常心ではいられないでしょうね。
今の心境を思うと言葉がないです。
まとめ
- 新シューズ規定でBANされたと思われたアルファフライが正式に発表されたよ
- Nikeは新ルールを見越して十分な準備をしてきたと考えられるよ
- 東京マラソンや全米五輪予選ではレースでデビューするのが確実だけど、履けない選手のことを考えたら複雑だよ
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