英メディアの記事を発端に世界中に広がり、日本国内でもマスコミに大きく取り上げれているヴェイパーフライ禁止論争。
様々な意見があって興味深いです。各所のアンケートを見ても規制反対派の方が多いようですね。現行のヴェイパーフライが規制される可能性は低いと思いますが、ほぼ確実に何らかの形でシューズに対するレギュレーションは追加されるでしょう。
ところで、WA(世界陸連、旧国際陸連・IAAF)の競技規則は毎年細かな修正が行われています。シューズに関連する項目は主に規則143と144に書かれているわけですが、この変遷をちょっと調べてみたら意外と面白かったので紹介します。
2007年
あまり大昔に遡ってもしょうがないのでネットで簡単に見つかるこの当たりから見ていこうと思います。実はこの頃に大きなルール改正が行われています。
それはご存知の方も多いであろう南アフリカの義足ランナー、オスカー・ピストリウス選手の件があったからですね。ピストリウス選手について知らない方はWikipediaを見ていただくとして、経緯だけ簡単に書くと
- 義足のピストリウス選手が北京オリンピックへの挑戦を表明
- 当時のIAAFはカーボン製の義足による推進力が不公平な助力と判断し、新たにルールを設けてピストリウス選手の参加を却下
- ピストリウス選手側はスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴し、CASはIAAFの判定を覆してオリンピックに参加できるように
- ピストリウス選手は北京五輪は標準記録を突破できず不参加、ロンドンオリンピックには出場を果たす
という流れです。この件があって追加されたルールがこちら。
Rule 144.2 (e) Use of any technical device that incorporates springs, wheels or any other elementthat provides the user with an advantage over another athlete not using such a device.
https://www.worldathletics.org/news/news/iaaf-council-introduces-rule-regarding-techni
「バネ、車輪、そのようなデバイスを使用しない他のアスリートよりも使用者に利点を提供する他の要素の結合による技術的なデバイスの使用」を禁止するというルールです。具体的に「バネ」、「車輪」といったメカニカルな要素を明確に禁止し、ピストリウス選手の義足はこの「バネ」に抵触するためIAAFの大会には出られないという判断でした。
IAAFはピストリウス選手を特に対象にしたルールではないとしていますが、時期的に考えてピストリウス選手に対するルールであることはほぼ確実でしょう。
2010年
2009年版はネット上で見つからなかったので2010年版になりますが、上記に該当する条文は以下のように修正されています。
Rule 144.2 (c) except for shoes complying with Rule 143, the use of any technology or appliance that provides the user with an advantage which he would not have obtained using the equipment specified in the Rules.
http://hyderabadathletics.com/Athletics%20Rules%202010-11.pdf
「Rule 143に準拠した靴を除き、規則で指定された機器では得られなかった利点をユーザーに提供する技術または器具の使用」を禁止する、という曖昧な表現になりました。
ピストリウス選手がIAAFの大会に参加できるようになったことが影響したと思われ、「バネ」や「車輪」という具体的な文言がなくなってしまいましたね。
Rule 143についてははシューズに関する基本的な規則で、後ほど出てきますのでそちらで説明します。
2017年
この年にRule 143.2のシューズ規定が微修正されています。この年はBreaking 2の年であり、ヴェイパーフライが発売された年でもあります。
以下の打ち消し線の部分がこの年に無くなりました。
Rule 143.2 “Athletes may compete barefoot or with footwear on one or both feet. The purpose of shoes for competition is to give protection and stability to the feet and a firm grip on the ground. Such shoes, however, must not be constructed so as to give an athletes any unfair additional assistance,
2017-2018年版のルール143including by the incorporation of any technology which will give the wearer any unfairor advantage. Any type of shoe used must be reasonably available to all in the spirit of the universality of athletics.”
「競技者は、裸足でも、また片足あるいは両足に靴を履いて競技をしてもよい。競技の時靴を履く目的は、足の保護安定とグラン ドをしっかり踏みつけるためである。しかしながら、そのような靴は、使用者に不正な利益を与えるようないかなる技術的結合も含めて、競技者に不正な付加的助力を与えるものであってはならない。使用されるあらゆる種類の靴は、陸上競技の普遍の精神に則りすべての人が合理的に利用可能でなければならない」
「不正な利益を与えるいかなる技術的な結合」の文言が無くなっています。この部分はRule 144でも似たような表現が出てきましたが本来は「バネ」や「車輪」等のメカニカルな要素を規制する表現だったはずです。
それが「バネ」のようなシューズが出てくるこのタイミングで無くなったのは・・・おや、誰か来たようだ。
ちなみにこの件については2017年の5月(Breaking 2直後)にもう指摘している方がいますね。
まとめ
- ピストリウス選手が当初IAAFに拒否されたのは当時のルールに明確に「バネ」を禁止すると書かれていたからだよ
- その後、ピストリウス選手がIAAF大会に参加できるようになるとこの文言は消されて曖昧な表現になったよ
- そして2017年に「バネ」のようなシューズが出てくるタイミングでそれに関係する文章が消されたりしているのは・・・おや、誰か来たようだ
間違い等あるかもしれないので詳しい方いたらご指摘願います。
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